ＧＰ２～太一＆麻里の場合～その１６６

Gold Plum

第二章

交錯

～太一＆麻里の場合～

六

ⅹⅹⅱ

　温泉宿、という言葉に胸が躍る。

「温泉宿！　いいじゃないですか！　

行きましょう！　素敵！」

　麻里は両手を組んで

温かな湯けむりの立つ露天風呂に思いを馳せた。

「キキキーキキキッキキー」

　リオが何やら鳴いて訴えてきたので視線を向けると、

胡乱げな目のムササビと目が合った。

観光じゃないんだぞ、と釘を刺されたようで小さく呻いていると、

太一の明るい声が聞こえてきた。

「大丈夫だって」

携帯越しの相手との話し合いは良好のようで、

あっという間に段取りが進んでいく。

「うん。わかった。それじゃお兄ちゃん、またあとでね」

　先ほどまでの深刻そうな声とは

打って変わった明るい調子で太一が告げる。

しきりに頷き、わかったー、と笑顔で通話を切った太一を、

麻里は複雑な思いで見守った。

（わたしだって、土地勘さえあればもっと役に立つはずなのに）

　子供相手に拗ねるのも如何なものかと思うものの、

まだ見ぬ涼介なる人物に対する対抗心は膨らむばかりである。

「リオのおじいちゃん。お兄ちゃんがありがとうだって」

　そんなこちらの思いなど露知らず、太一が邦夫へ話を振る。

「わしに礼を？　獣人だと知っているだろうに……」

　礼を伝えられた邦夫がほっこりした様子で目尻を下げた。

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