ＧＰ２～善郎＆律子の場合～その１６

Gold Plum

第二章

交錯

～善郎＆律子の場合～

二

ⅴ

「すすすすすすすみません！　弁償しますから！！」

「自転車よりもまずは自分の身体だべ？　本当に怪我はしてないんか？」

「そそそそそ、そうだ！　びびびびび病院！　病院へいきましょう！」

　慌てふためいている青年を脇に寄せ、

灰褐色の髪を後ろで一つに束ねているねずみ色の作務衣姿の老男が

一歩前に出てくる。

「あ、はい。たぶん」

　律子は心配げに眉を下げる男性へ、

大丈夫だとわからせるためジャンプをしてみせた。

周りにいた人たちにもそれが伝わったようだ。

抹茶ミルク色の着物に

青海波とふっくらとした可愛らしい千鳥が描かれている紺色の帯をした、

たおやかな老女が安堵の息をついた。

「なら良かった。もうまぁーくんったら、

ちゃんと周りを確認してから扉を開けないとダメじゃない！」

　幼子を叱るようにたしなめる女性の隣で、

青年は未だに米つきバッタのように頭を下げ続けている。

しかし律子は、そんな彼の行動よりも

彼の頭に突出し始めている物体に目を見開いた。

「落ち着け、正志。角が出てんぞ」

　こちらの動揺をよそに、

ムササビの形をした留め具のついたループタイをしている

ずんぐりとした男性がのんびりした口調で指摘する。

（やっぱりあれ角だったんだ……）

　若木の枝のように頭から生えた角は、

青年が頭を下げるたびにブンブンと風を切る音を鳴らしていた。

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