ＧＰ２～善郎＆律子の場合～その３

Gold Plum

第二章

交錯

～善郎＆律子の場合～

一

ⅲ

「おい、芽衣子！　芽衣子はいるか！」

　善郎は沸き起こる恐怖心を振り払い、

和子とともにキッチンにいるはずの芽衣子を呼んだ。

「はーい。なあに、お父さん？」

　芽衣子が紺のスーツの上にピンクのエプロン

姿のまま近づいてくる。　

「お前、奴に電話して訊いてみろ」

　庭から部屋へ入りながらぶっきらぼうに告げると、

芽衣子が首をかしげてきた。

「奴って、飛田君のこと？」

「決まってるだろう！」

　芽衣子の問いにかっとなって怒鳴ると、芽衣子が不快げに眉根を寄せる。

「怒鳴らないでよ。だいたい何を訊くの？　きっと今出勤前よ？」

「鍵だ鍵！　捨ててきちまっただろうが。

みのり様から頼まれた物に何かあったらどうする！

今すぐ連絡しろ！」

　怒鳴りつつ、ステテコの上からズボンを履いた。

「メールじゃダメなの？」

「馬鹿やろう！　ダメに決まってるだろうが！」

　重ねて尋ねてくる芽衣子に怒声を浴びせると、

彼女が小さく溜め息をつく。

「わかったわよ。ちょっと待ってて」

　携帯を取りだしボタンを押した。

小さなコールが洩れ聞こえ、ほどなくして芽衣子が嬉しげな声をだす。

「あ、飛田君？　朝からごめんね。ううん。違うの。

お父さんが昨日取った板版を捨てちゃったみたいで。

うん。そう。それを探してほしいっていうんだけど。うん。

ごめんね。ありがとう。え、お父さんに？　うん。わかった」

　常には聴かない甘ったるい声をだしていた芽衣子が、

打って変わったようにぞんざいな態度で電話をつきだしてきた。

「お父さん、飛田君が代わってほしいって」　

　なんだその態度は、とむかつく胸をどうにか宥める。

「む……」

　善郎は娘が手渡してきた携帯を受けとり、耳にあてた。

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