ＧＰ２～善郎＆律子の場合～その６

Gold Plum

第二章

交錯

～善郎＆律子の場合～

一

ⅵ

「ここが蜂万神社ですか？」

　目の前に、申し訳程度に立っている石鳥居と

草すら生えていない広場が広がっている。

その奥には古ぼけた社のような建造物があるが、

律子はここが本当に神社なのかと、呆然と呟いた。

そんなこちらの声に、隣に立っている薄灰色したスーツ姿の男が

静かに頷く。

「ああ。……すまない、りっちゃん時間だ」

「あ、はい。出勤前にすみませんでしたお義兄さん」

　男は時計を見て眉をひそめる。

律子は義姉である狐塚（こづか）直実の夫、

大輔に慌てて頭を下げた。

　昨日帰り際に話した頼み事を直実は大輔に伝えてくれたようで。

昨夜律子が夕飯の後始末を終えリビングでのんびりしているところに

大輔から電話がかかってきた。

　律子は相手からは見えていないにも関わらず

ソファの上で正座をしながら義兄からの言葉を聞き、

早速この鉢万神社へやって来たのだ。

　獣人たちが住んでいる地区とはいえ、

人間たちの住んでいる地区のちょうど境にあるためか

ひと気がまったくない。

参拝者があまりこないのかもしれない。

眼前に捕らえている鉢万神社は、

神社というにはあまりに殺風景な場所だった。

「いや、構わない」

　あらかじめ狐の獣人である大輔から場所を聞いていたため

１人でこっそりと行くつもりだったのだが、

出勤前なら時間が取れると義兄自ら道案内を買って出てくれたのだ。

「本来だったら最後までいたかったのだが……」

　淵なし眼鏡が収まっている大輔の秀麗な顔が悲しげに歪む。

律子は大袈裟なまでに手と首を横へ振った。

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