Gold Plum

第四章


疑惑


〜涼介＆太一の場合〜


七


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　噂はあくまでも噂であって真実ではない。

それを前提と見せかけたあとで、美都子は涼介の心に小さな歪みを

作ろうと語りかけた。


「……ただ、あなたのお兄様は市長をしていらっしゃるでしょう？」

「そうですが……」

「あの若さで市長の地位を得ることはとても珍しいわ。あなたの

お兄様がとても優秀なかただとは存じてはいるけど、だからこそ

わたくしは心配なの」

「心配なさることのほどではないと思いますが」


　簡単にはいかないようだ。慌てふためき動揺のままにこちら側へ

転がってくると思ったが、思いのほか頑ななようだ。


「兄はあれでも義理堅い人間ですから、梅八家をないがしろにする

などということはないと思います」


　梅畑市長を擁護しようとする涼介の姿に、美都子は内心で嘆息を

もらしながらそれを隠すように頷いた。


「そうね。あなたの言うとおりだと思うわ。ただ火のないところに

煙は立たないというでしょう。わたくしはみのりが傷つくところを

見たくはないのよ」

「もし、そんなことが本当にあったのだとしたら、僕がみのりさん

をお守りします。兄にも考えを改めてもらうよう説得しますよ」


　子を思う親の気持ちを持ち出して同情をひこうと思ったが、

それすらも不発に終わる。美都子は、これ以上彼を説得することを

諦めた。梅畑涼介という青年は、予想外にも骨のある男だった

らしい。思い通りに進まないことに微かな苛立ちを感じた。

だが、美都子はそれをおくびにも出さず軽やかに微笑んだ。


「その言葉を聞けて胸のつかえがとれたわ。ふふふ。わたくしを、

娘を甘やかすバカな母親だと思ったかしら？」


　未練がましく情報を引き出そうと話しを続けていると、おもむろに

涼介が羨望の眼差しを向けてきた。


「いいえ。みのりさんが羨ましく思えますよ」

「あら、どうして？」


　彼の背景を知るにはちょうどいい。美都子は首をかたむけて

相槌を打った。