Gold Plum

第四章


疑惑


〜涼介＆太一の場合〜


二


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「た、ただいまー」

　太一がためらったような声で帰宅を告げると、

受話器が乱暴に置かれる音がした。

（やばい。これは結構、いや、かなりやばい）

　迫りくる危機感に冷や汗を流しているうちに、

慌てきったような足音が聞こえる。

じれたように鍵を開ける音が聞こえ、

暴風でも襲ってきたかのような勢いで扉が開かれた。

「太一！　あんたって子は！」

　母親だろうか。

有無を言わせず太一を腕に抱き込む女性を前に、太一が目を白黒させる。

「ま、ママ？　くるしいよ」

　身を捩らせて抵抗する太一を女性がさらに強く抱き込んだ。

（いいなあ……）

　場違いとは思いつつも、涼介はついついそんな考えに囚われた。

思えば自分の両親は自分に対していつも無関心だった。

祖母は恐ろしいほどにきつく当たられ、

思ったより心安かったのは祖父だけだったように思う。

（俺もこんな風に心配してくれる人間がいたら……）

　ふと自分がかすり傷を負った時に見せたみのりの剣幕を思いだし、

絆創膏に手をあてる。

あんなに怒られたのって、もしかして初めてじゃなかっただろうか。

ふいに温かい気持ちになり噛み締めていると、

うーと小さく抗議の声をあげる太一の声が聞こえてくる。

（何考えてんだ。こんな時に）

　涼介は状況を思いだし慌ててかぶりを振った。