Gold Plum

第四章


疑惑


〜涼介＆太一の場合〜


四


�D

　廊下の端にあった扉を示すと太一が元気よく尋ねてきた。

「あそこがお兄ちゃんの先生の部屋なの？」

　小学校とは勝手が違うだけに少し不思議なのかもしれない。

（職員室みたいなものがあるわけでもないしな）

　大学にもよるが研究室というのは教員たちが自己の小さな宝箱の中で、

学生を待つタイプのほうが多い。

かくいう黄梅学園大学もその一つだから、廊下に沿って等間隔に扉が連なっている。

「冴島先生っていうんだ。いい先生だよ」

　緊張しているのかもしれない太一に笑顔で答えていると、野木崎が口を開いた。

「そういえば何も考えずについてきちゃったけど、その先生、今いらっしゃるの？」

　心配げに確認してくる野木崎へ涼介は首肯する。

「はい。野木崎さんから聞いた話をお話ししたらぜひ直接話を聞きたいと」

　野木崎が許可さえしてくれたなら、

おそらく冴島教授の質問攻めに合うこと請け合いだ。

なにしろ大多数の教授たちと同じように、

あの冴島教授もこと黄梅市史や伝承に関する執念は並々ならぬものがある。

「冴島先生って、男の先生？　それとも女の先生？」

「いやいや、白髪のおじいさん先生だよ。

ついでに友人の友永がいて、女子は助手の丸山さんだけだよ」

　スーツを着ているほかは好々爺、と言った風情の

冴島教授の細面を思い浮かべつつ説明すると、

飛び跳ねていた太一の表情がわずかに曇った。　

（あれ？）

おじいさん先生、と聞いたからだろうか。

そういえば、みのりや麻里にものすごく懐いてた気がしなくもない。

（この年でもう女の子が好きとかそういうことか？）

　最近の子は自分の頃とはずいぶん違うんだなあ、

などとしみじみ考えていると、野木崎の身体が小さく跳ねた。