Gold Plum





第五章


自覚


〜みのり&涼介の場合〜





II




「ええ、そうです。ではあなたの盃から参りましょう」


 のみが満足気に、にこりと涼介へ微笑む。

すると彼は照れくさそうに、右手で襟足をなでながら頭を下げた。


「あ、はい。よろしくお願いします」


 みのりは彼らの顔を交互に見つめながら押し黙る。その代り、

ふつふつとわき出る文句を胸の内でぶちまけた。


(何よ、涼介のバカ! なんで邪魔するのよ!

デレデレ鼻の下なんか伸ばしちゃってみっともない!

あなたには紅がいるでしょうがっ!)


 こちらの様子など一切気にしたふうもなく、涼介はのみから

注がれているものを一心に見つめている。梅の果汁だろうか。

甘酸っぱい香りが、苛立った気持ちを癒す。みのりは涼介たちから

視線を外し、静かにのみの肩に座っている雪姫へ目線をやった。


(雪姫があの舞を躍っただけで果汁が生み出されるなんてお母様は

知っているのかしら?)


 あの舞は、幼い頃から幾度となく教え込まれてきたものだった。

雪姫のようにとはいかなくても一通り舞うことはできる。

だが、覚えた振付をただ舞うだけではだめだったのだろう。

何度舞って見せても母からの及第点は貰えなかった理由が、

さっき間近で雪姫の舞を見て少しだけわかった気がした。










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