Gold Plum





第五章


自覚


〜みのり&涼介の場合〜





B




「山波さん! 乗ってください!」


 車内から顔を出したのは梅森文兎(うめもりふみと)だった。

 涼介は悔しさに拳を握り締める。

 あれは長兄、雅秋の私用車だ。

 文兎が運転しているということも、私用であるという証拠になる。

彼は確か普段はみのりの家庭教師をしていたはずだ。

だが、昔からなぜかよく梅畑邸へ出入りしており、

長兄の雅秋と何やらこそこそやっていた。


(やっぱり雅秋兄が黒幕ってことなのか?)


 身内の不祥事のためにみのりたちが振り回されたのだと思うと、

腸が煮えくり返る。


「あ、あんた誰だ?」


 驚いている山波に文兎が荒く手招きした。


「いいから! 早く!」


 叫ばれて、山波が一度振り返る。

 迷っているのだろうか。

なら、今呼びかければ間に合うかもしれない。


「やま……!」


 声を張り上げるのと同時に、

山波が口を引き結び後部座席へ乗り込んでしまう。

 涼介は全速力で車の扉へ追いすがろうとしたが、

掠りもしないうちに走り去ってしまった。


「山波さん!」


 ひたすら叫ぶ。

 だが、黒い車はあっという間に見えなくなった。










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