Gold Plum
第五章
自覚
〜みのり&涼介の場合〜
九
B
「山波さん! 乗ってください!」
車内から顔を出したのは梅森文兎(うめもりふみと)だった。
涼介は悔しさに拳を握り締める。
あれは長兄、雅秋の私用車だ。
文兎が運転しているということも、私用であるという証拠になる。
彼は確か普段はみのりの家庭教師をしていたはずだ。
だが、昔からなぜかよく梅畑邸へ出入りしており、
長兄の雅秋と何やらこそこそやっていた。
(やっぱり雅秋兄が黒幕ってことなのか?)
身内の不祥事のためにみのりたちが振り回されたのだと思うと、
腸が煮えくり返る。
「あ、あんた誰だ?」
驚いている山波に文兎が荒く手招きした。
「いいから! 早く!」
叫ばれて、山波が一度振り返る。
迷っているのだろうか。
なら、今呼びかければ間に合うかもしれない。
「やま……!」
声を張り上げるのと同時に、
山波が口を引き結び後部座席へ乗り込んでしまう。
涼介は全速力で車の扉へ追いすがろうとしたが、
掠りもしないうちに走り去ってしまった。
「山波さん!」
ひたすら叫ぶ。
だが、黒い車はあっという間に見えなくなった。
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