Gold Plum





第五章


自覚


〜みのり&涼介の場合〜





B




「いいから! 一緒に行くんだ! 今すぐ!」


 涼介が力任せに引っ張る。紅の救助はまだかと、みのりは

踏ん張りながら彼女を探す。しかし紅は紅で、なぜか碧に肩を

掴まれていた。


「兄さん、離して」

「まあまあ。もう少し様子をみましょう」

「様子をみましょうじゃないわよ! ちょっと、離してってば!」


 すがすがしいまでの笑顔を紅へ向けている碧の態度に、みのりは

腹を立てる。同時に、一向に離す気配のない涼介の手を外そうと

もがく。だが、体力だけが奪われるだけで彼の手はピクリとも

動いていなかった。


「一体何事なんでしょうか?」

「さあ、青春ってやつじゃないかな?」

「お兄ちゃんってば、ここについた途端走り出しちゃったんだよ」

「梅田さんだったかしら? みのり様の側近のイケメン。あの人に

電話してるときもなんだか焦っていたわよね」


 こちらが必死になっているのとは裏腹に外野の雰囲気は和やか

だった。まるでテレビでも見ているような会話を尻目に、

みのりは涼介を睨みつける。


「行くってどこによ」


 せめて行き先を教えてくれれば妥協できるかもしれない。

そう思い、叫ぶように訊いてみる。が、彼の返答は思いも

よらないものだった。


「君の母親、現当主の元にだ! さあ、行こう!」

「いやよ! 絶対にイヤ!」


 首を激しく振り、身体全体で拒否する。

だが、涼介が腕を掴んでいた手を離し、両肩を抑え込むように

掴んでくる。


「嫌じゃない! もうこれ以上逃げるのはやめるんだ!」


 みのりは、幼子を叱りつけるような青年の大きな声に、目を

見開いた。










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