Gold Plum





第六章


対峙


〜みのり&涼介の場合〜





IIIII




 どんどん近くなってくる見慣れた屋敷を見据えていると、

みのりが明るい声音で言葉を紡ぐ。


「そうね。さっさと行って山波さんを返してもらわなくっちゃ」


 おそらく自分の立場を慮ってくれたのだろう。


(優しい娘だな)


 最初はまったく気づかなかった。

みのりの優しさも、彼女の孤独も。


「ああ」


 視線を向け、まっすぐにみのりの瞳を覗き込むと、

みのりも強い視線を返してきた。

 決意の篭った目だ。


(綺麗だな……)


 凛とした輝きを放つ双眸に、涼介は一瞬我を忘れる。

彼女を抱き締めたい衝動に駆られ身を乗り出すと、

唐突に鼻先へ小さな手が掠めた。


(あっぶねー!)


 咄嗟に身を引いて前方を確認すると、

紅がまっすぐに両手を上げているのが目に入る。


「どうしたの紅?」


 驚いたように尋ねるみのりに、紅が胸の前で拳を握った。


「お嬢さま、アタシ、頑張る!」

「そ、そう。お願いね」


 小首をかしげつつ微笑むみのりを見て、涼介は気まり悪げに頬を掻く。


(助かったような、残念なような……)


 色恋に現を抜かしている場合ではないのだから、

現実に引き戻してくれた紅には感謝しなくてはならないのだが。

なんとなくもやもやしたものが胸中で渦を巻く。


(いいかげんにしろって、俺)


 小さくかぶりを振っていると、運転席から声がした。


「さすがは僕の紅だ。っと、そんなことを言っている間に到着しましたよ」


 車内に緊張が走る。

 黒い門扉は空いている。こちらが来ることを知っていた証拠だ。


「雅秋兄……」


 長兄が黒幕であることは間違いないらしい。

苦々しい思いに唇を噛み締めるのをよそに、

車は石垣の中へ静かに入っていった。










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