スイーツ娘、村へ帰る。
第二章
7
台布巾で手を拭いて勝手口を開けると、見知った顔があった。
「あ、カリナさん! こんにちは」
笑顔で挨拶をすると、カリナが不思議そうに首をかしげてきた。
「あら? 1人?」
「はあ、まあ、色々あって……」
どう答えていいのか迷って頬をかく。
すると、カリナが残念そうに眉根を寄せた。
「クロナ君も喜びそうな話持ってきたんだけどな」
カリナは村はずれに不思議堂という店を構える女主人だ。
そこでは主(おも)に、村だけでなく国外から入手した珍しい食材や
スパイスを扱っていて人気を集めている。
アローナも以前あった大会で世話になって以来、
常連客の1人として何かと頼りにしているのだが。
食材を図鑑で調べるのが趣味であるクロナとは気が合うらしく、
たまにカリナのほうから家へ訪ねてきていた。
「また新しい商品ですか?」
「当たり」
アローナが問うと、カリナがにやりとする。
「実物の入荷はまだ先なんだけど、こんなヤツなの」
ほくほく顔でチラシを見せてくる。
用紙に書かれた絵は丸い桃のような形状をしていた。
「これって、種?」
果物というよりは何か硬い殻に覆われている気がする。
見たことのない食材に首を捻っていると、カリナが頷いた。
「ま、そんなようなものね。『クルミ』っていうんだけど、
殻を割って、中を食べるの」
「へえ〜」
ということは、アーモンドのようなものか。
(どんな味がするのかしら?)
カリナが薦めるくらいだから、きっとおいしいに違いない。
好奇心が湧き上がり内心でほくほくとしていると、
それが顔に出ていたのかカリナが満足げに笑った。
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