スイーツ娘、村へ帰る。



第三章





 できたクッキー生地の型にカスタードクリームを乗せ、

その上に洋梨のコンポートを慎重に並べた。

ワインと砂糖に水を混ぜ一煮立ちさせたあとゼラチンを溶かす。

それを薄く洋梨の上に塗り冷やすこと約一刻。

できた「洋梨のタルト」を前に、アローナは息を詰めた。

 ゆっくりとナイフを入れ、震える手を抑えながら口に含む。

用心深く咀嚼し飲み込むと、一際長い溜め息を落とした。

「普通だわ」

 レシピ通りに作ったのだから当たり前なのだが、

これまでがこれまでなので正直自分を信じきれずにいたのである。

「よかった」

 ふと口元を綻ばせていると、ノック音がした。

「ご機嫌よう、アローナさん」

「イルミラ! いいところに!」

 満面の笑みで迎えると、イルミラが飛び跳ねる。

「ええ?! な、なんです?」

「そんなに構えないでよ」

 ビクビクと身構えるイルミラにアローナは苦笑した。

「でも、こういう時のアローナさんって怖いことおっしゃるんですもの」

 身構えたまま答えるイルミラの言葉をアローナは黙殺する。

「まあ、それはともかく」

 笑顔のまま話題を変えると、イルミラがあの、と口を開いた。

「そこは話を変えないで、できれば向き合っていただきたいんですけど」

「まあまあ」

 非難げな瞳で見つめてくるイルミラをアローナは宥める。

「それはそうと、クロナはどう?」

「どうって、素敵ですわ!」

 無理やり話を逸らしクロナの名をだすと、イルミラの頬が朱に染まった。

アローナは呆れ半分で手を横に振る。

「いや、違うってば。どうしてるのって意味」

「あら、そ、そうでしたの! 失礼いたしました」

 イルミラは両頬を手で覆い、

気を落ちつかせるためか1つ大きく吐息した。










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