スイーツ娘、村へ帰る。
第三章
9
できたクッキー生地の型にカスタードクリームを乗せ、
その上に洋梨のコンポートを慎重に並べた。
ワインと砂糖に水を混ぜ一煮立ちさせたあとゼラチンを溶かす。
それを薄く洋梨の上に塗り冷やすこと約一刻。
できた「洋梨のタルト」を前に、アローナは息を詰めた。
ゆっくりとナイフを入れ、震える手を抑えながら口に含む。
用心深く咀嚼し飲み込むと、一際長い溜め息を落とした。
「普通だわ」
レシピ通りに作ったのだから当たり前なのだが、
これまでがこれまでなので正直自分を信じきれずにいたのである。
「よかった」
ふと口元を綻ばせていると、ノック音がした。
「ご機嫌よう、アローナさん」
「イルミラ! いいところに!」
満面の笑みで迎えると、イルミラが飛び跳ねる。
「ええ?! な、なんです?」
「そんなに構えないでよ」
ビクビクと身構えるイルミラにアローナは苦笑した。
「でも、こういう時のアローナさんって怖いことおっしゃるんですもの」
身構えたまま答えるイルミラの言葉をアローナは黙殺する。
「まあ、それはともかく」
笑顔のまま話題を変えると、イルミラがあの、と口を開いた。
「そこは話を変えないで、できれば向き合っていただきたいんですけど」
「まあまあ」
非難げな瞳で見つめてくるイルミラをアローナは宥める。
「それはそうと、クロナはどう?」
「どうって、素敵ですわ!」
無理やり話を逸らしクロナの名をだすと、イルミラの頬が朱に染まった。
アローナは呆れ半分で手を横に振る。
「いや、違うってば。どうしてるのって意味」
「あら、そ、そうでしたの! 失礼いたしました」
イルミラは両頬を手で覆い、
気を落ちつかせるためか1つ大きく吐息した。
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