スイーツ娘、村へ帰る。



第一章

1−5



 結局、家の中にクロナの姿はないようだった。

台所に戻ったアローナは生地の具合を確かめ一人頷く。

強力粉を台に塗して生地を伸ばしながら、口を尖らせた。

「クロナったらこんな大事な時にどこで油売ってるのかしら?」

イライラしながら綿棒に力を入れる。

均等な厚みになるよう様子を見ながら作業を続けていると、

勝手口から小さなノック音がした。

「はーい」

 手は止めず返答すると、

ふわふわとした長い金髪の少女が顔を覗かせた。

「こんにちはー」

 村の領主の一人娘であるイルミラ嬢である。

どこをどう気に入ったのかはわからないが、

彼女はクロナに恋をしているらしい。

何かにつけてクロナの元へやってきては、

自分で作ったオレンジジュースやらスイーツやらをごちそうしている。

クロナもクロナでイルミラのお菓子が好きなようだ。

(お似合いと言えばお似合いな感じなんだけど……)

 イルミラがクロナの高い理想に叶っているのかと言えば、

あのノートを読む限り違う気がする。

アローナは頬を染めて中を窺ってくるイルミラを見た。

今日もきっとクロナに用があるのだろう。

(この子、クロナに対してはものすごく健気なのよね)

 成就するものならしてほしいところだが。

などと内心で呟いていると、イルミラが上目遣いで尋ねてきた。










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