スイーツ娘、村へ帰る。
第六章
2
(手が滑る……)
気をつけようと思えば思うほど、
掌に汗をかいているせいでバランスが取りにくい。
(落ちつけ……)
アローナは内心で何度も念じながら審査員の前へタルトを置いていく。
審査員の3人は一様にタルトをじっくりと検分したのち、
フォークを入れた。
そのまま優雅な動作で口に含む。
次の瞬間、審査員たちが口々に叫んだ。
「まあ!」
「おお!」
「おいしい!」
アローナは3人の一言で天にも昇るような気持ちになる。
頬を上気させていると、イルフォードが口火を切った。
「これは、我々が想像した以上に新しい味だ」
「ええ。この甘くて柔らかく、少し苦い実はなんと言うの?」
涙を滲む瞳で問いかけてきたイルーナに、アローナは答える。
「『クルミ』と言います。
カリナさんのお店にあったのを分けていただいたんです」
「そうなの。このクルミと、それからアーモンドやピスタチオの
混じったキャラメル生地がなんとも言えない口当たりだわ!」
イルーナが歓喜わまったような声をあげ、カリナが深く頷く。
「外のタルト生地もさっくりしていて食べていて楽しいです」
「うむ」
カリナの言葉に同意しつつ、イルフォードが腕を組んだ。
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