スイーツ娘、村へ帰る。



第六章

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 半刻ほど経った頃、階上からリズミカルな足音が聞こえ、

クロナが顔をだした。

「アローナ、何か作ってるの?」

 欠伸をしつつ訊いてきたクロナへアローナは微笑む。

「なんだ、寝てたの?」

「うん、ちょっと居眠りしてたみたい」

 首を鳴らしながら台所へ入ってくるクロナへ、

アローナは切り取ったばかりのケーキを差しだした。

「ちょうどいいところに来てくれたわ。ケーキ作ってみたのよ。食べてみて」

 自信作だ、と半分踏ん反り返りながら告げると、

クロナがケーキの乗った皿を受け取る。

「あ、ミルクレープ? ちょっとクリームが緑色っぽいけど、何入れたの?」

 少し疑わしげに尋ねてくるクロナへアローナはアボカドを見せる。

「カリナさんからもらった新しい果物みたいなものよ。まずは食べてみてよ!」

「あ、うん」

 勢い良く迫ると、クロナが気圧されたように頷き、フォークでケーキを切る。

一口大にしたケーキをおずおずと口に含み無言のまま咀嚼を繰り返すクロナへ、

アローナは期待を込めて尋ねた。

「どう?」

 クロナがからくり人形のように、

ギギギっとぎこちなく首を向け言葉を紡ぐ。

「まずい……」

 涙目で答えるクロナへアローナは目を瞬かせた。

「え? そう? ちゃんと甘くしたんだけど」

 おかしいわね、と頬に手をあて考え込んでいると、クロナが声を荒らげた。

「訊くけどアボカドってやつのほかに何入れたのさ! 

この食感どう考えても海老なんですけど!」

 鋭く追及してくるクロナへアローナは拍手を送る。

「あ、よくわかったわねー! さすがクロナ!」

 本気で感心しているところへ、クロナは台を叩く。

「こんなハチャメチャなミルクレープおいしいわけないじゃないか!」

「失礼ね! ちゃんとボイルしたわよ!」

「そういう問題じゃないよ!」

 いきり立って地団駄踏むクロナを前に、アローナ吐息する。

結構気を遣ったつもりなのに、何がいけなかったのだろう。

まあ、まずいものを食べさせてしまったのは良くないことではあるが。

「まあいいじゃない。もう一工夫すればきっとおいしいはずよ!

あたしめげないから!」

 そして、いつか王都で菓子作りをする憧れの彼女のように、

立派な菓子職人になるのだ。

拳を握り締めて誓っていると、クロナが疲れたような声をあげる。

「お願いだからめげてよ……」

 半分懇願するように告げられた言葉に聞こえない振りをしながら、

アローナは明日作るスイーツへ思いを馳せた。




END






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