スイーツ娘、村へ帰る。



第一章

1−7



 遠くからイルミラの声がする。

やはりというか当然というか、ともかくまだクロナは姿を見せないようだ。

「見つかるといいけど」

 アローナは丸く型作ったクッキーを温めておいた窯焼きオーブンへ入れる。

実は最近ガスのオーブンも取り付けてはみたのだが、

まだ怖くて触れずにいた。

文明化が村でも進み始めたのはいいのだが、頭がついていかないでいる。

「ま、今回はいいわよね」

 アローナは汚れたキッチン器具を片付けながらひとりごちた。

 食器や器具が綺麗になっていくのは気分がいい。

丁寧に泡を切ってからカゴへ入れ布巾で拭いていると、

次第に香ばしい匂いが漂ってきた。

アローナは窯を開け、クッキーの様子を窺う。

注意深く検分した後、唸った。

「色はいい感じよね。

少し水っぽい感じもするけど……。匂いはちょっぴり個性的かしら?」

 顎に手をあて呟くと、

またしても遠くからクロナを捜すイルミラの声が聞こえてきた。

だからいないと言ったのだが。

一生懸命なイルミラが不憫に思え、アローナは息を吐いた。

「本当に、どこに行っちゃったのかしら? クロナってば」

 これは最終手段にでるしかないかもしれない。

アローナはクッキーの皿を用意しながら、小さく頷いた。










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