スイーツ娘、村へ帰る。
第一章
1−8
「クロナ様ー!」
後庭のテラスの前で、イルミラが声を張り上げている。
「まだ見つからないの?」
皿に赤黒いクッキーを乗せティーセットとともに
テーブルへセッティングしながら尋ねると、
イルミラが落ち込んだように目を伏せた。
「はい。やはり商店街に出てしまったんでしょうか……」
オレンジジュースの瓶を抱え下を向くイルミラを前に、
アローナは決意する。
「そうねぇ……。じゃあ奥の手を使いましょう」
指を立てて提案すると、イルミラが顔をあげ目を輝かせた。
「どうするんですの?」
イルミラの言葉に答えず、アローナは声を張る。
「『その髪は流れる水の如く清く、たお……』」
大袈裟な声をあげて先刻覚えたフレーズを口ずさむと、
大きな木の根元から悲鳴が聞こえてきた。
「わー! やめてよー!」
「見つけた!」
走り寄ってきた影を指差しにやりと宣言する。
「しまった!」
出てきたクロナが顔を顰め身を固めた。
「クロナ様!」
イルミラが叫ぶ。
喜び勇んで思いきり飛びかかるイルミラをよそに
呆然と佇むクロナを見てアローナは満悦した。
一つ前を読む 小説の部屋へ戻る 次を読む
|