卵のつがい
第一章
1−1
ミラは背負っていた荷物を足下へおろし、どっしりとしたナーブ
の幹へ背を預けた。背中越しに感じるなめらかでひんやりとした感
触が火照った体にはちょうどいい。
「ふぅー。まだ旅は始まったばかりだっていうのに……。やっぱり
昨日緊張してよく眠れなかったのがいけなかったのかなぁ?」
モモンガの観察中に亡くなってしまった父の仕事を引き継いでか
ら3年。日頃、モモグの森の中を駆け回っていることもあり体力に
は自信がある。しかし寝不足の身体で太陽が照らす中を歩き続ける
ことがこれほどつらいとは思ってもみなかった。ミラは腰に括り付
けておいた皮の水筒を取り出し、乾いた喉を潤す。
「ずっと歩いて旅をしていたイースって意外とすごいやつだったの
ね」
半年くらい前だろうか。モモグの森へ向かう途中に怪我をした母
を見つけ、家まで背負ってきくれた青年がイースだった。
「あのときは本当に驚いたなー」
母親の声がしたと思い扉を開けたら、ボサボサ頭の黒縁眼鏡をし
たイースが顰め面で立っていたのだ。まだそれほど経っていないと
いうのにひどく懐かしく感じる。ミラはリュックの中から箱を取り
出し、いくつもある封筒の中から1つを選びゆっくりと手紙を開い
た。
小説の部屋へ戻る 次を読む
|