卵のつがい
第一章
1−11
「フィット君おかえりなさい」
こちらの呼びかけにフィットが目を丸くして凝視してくる。
まさか客から声をかけられるとは思ってもみなかったのだろう。
笑みを浮かべながら手を振ると、ぎこちなく振り返してきた。
(一度きりだからあたしのことなんか忘れちゃったわよね)
フィットの鈍い反応に内心で苦笑いしていると、何かを思いついた
かのように少年がパンッと手を叩いた。
「あ、モモンガの姉ちゃん!」
「あたしのこと、覚えてくれてたの?」
「当たり前だろ。それで今日はどうしたの?」
フィットから店主さながらの対応をされる。
アルノーそっくりな接客に感心しながらミラは、イースの住む学園へ
行く途中だということを説明した。
「ほう。そうだったのか。兄ちゃんは元気でやってるのかい?
会ったらよろしく言っておいてくれよ」
「わかりました。あの、それでイースへのお土産に……」
フィットの代わりに話しかけてきたアルノーへ頷いて応えたあと、
本来の目的を口にする。
アルノーのあご髭をなでていた手がゆっくりととまった。
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