卵のつがい
第一章
1−2
「“ミラ! ぼくはやっぱり医師になりたい。”か、ふふふ。手紙
で書かなくてもプレオを撫でたときの顔を見ればそうなることはわ
かっていたわよーだ」
身近な存在を亡くし、命を預かる医師という職業の勉強から逃げ
出したイースが再び学園へ戻ると帰って行ったあの日。眼鏡の奥か
ら見えた何かを決意した力強い眼差しを今でも覚えている。
「あんな真剣な目で見つめられたらその気がない女の子でもクラク
ラしちゃうわよね」
気恥ずかしくてきちんと見送りができなかったことの後悔も薄れ
始めた頃、イースからの手紙が自分宛に届いたのだ。もう2度と会
うこともないと思っていた相手からの手紙に、偽物だと思い込み。
母親に手紙を見せてしまったのは今すぐにでも消したい過去の1つ
だったりもする。
「いくら気が動転してたからって、なんであのとき母さんに手紙な
んて見せちゃったのかしら」
悔やんでも悔やみきれない。手紙が届くたびににやにやしながら
渡してくる母親の顔を思い出し、ミラは顔をしかめた。
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