卵のつがい
第二章
5
「それを聞けて安心じゃ。あ、そうじゃったイース。セレナさんかエ
ルを呼んで来い」
アルフがにこやかに首を縦に振る。そして後ろにいるイースへ話し
かけた。しかし、先ほどから瞳を見開いたまま呆けているイースには
アルフの声が聞こえていないらしい。返答のないイースを不思議に思
ったのか、アルフが眉間にしわを寄せ振り返った。
「おいイース聞いておるのか?」
「は、はいっ、ただいま」
アルフの睨みが効いたのか、微動だにしなかったイースが再び動き
出す。頭をペコペコと下げ、勢いよく後ろへ体を向けた。
「あ、危ない!」
イースへ危険を知らせようと発した声は一足遅かったようだ。今閉
まったばかりの扉へイースが顔を激突させる。
「何をやっとるんじゃ? 大丈夫か?」
ものすごい音にアルフがイースの体を自分の方へ向ける。そしてぶ
つけた場所を確認し始めた。
「は、はい。だ、大丈夫……です……」
扉へあたった拍子にずれた眼鏡を直しながらイースが照れくさそう
に頭をかく。それを見て怪我がないと判断したのだろう。アルフが呆
れた様子でため息をついた。
一つ前を読む 小説の部屋へ戻る 次を読む
|