卵のつがい



第四章

16



「思い出してもらえてよかったよ。

それじゃあ、エポックさんを止めに早く戻らないとね」


 イースが眉毛を下げながら困ったように笑う。

エポックのことを気にしているのか、

少し焦っているような様子で先を急ごうとする彼へミラは助言した。


「そんなに急がなくても大丈夫よ。エポックのことだもん」


 ちょっとやそっとではへこたれないだろう。

それがたとえ、男性を追いかけていたとしてもだ。

だが、イースの考えは違うらしい。間髪入れずに遮ってきた。


「いやエポックさんよりもグランだよ」

「あー、そっちか……たしかに繊細そうだったもんね。

それはマズイかもしれないわ」


 もしかしたら幼馴染みの勢いに圧されているかもしれない。

女の自分よりも華奢に見えたあの少女と見紛うグランなら

容易に想像できた。


「いや、そういう意味ではないんだけど……」

「え? 何か言った?」

「いや別になんでもない。とりあえず急いで戻ろうか」


 イースが首を静かに振る。

そして、おもむろに手を差し出してきた。

ミラは照れくさく感じながらも、そっと手を乗せる。


「ふふふ。

……これでエポックにちゃんとイースのことを紹介できるわね」

「え? もう自己紹介したけど?」

「その紹介じゃないわ」


 イースが不思議そうに首をかしげてくる。

ミラは微笑みながら否定した。

すでにエポックたちがイースのことを恋人だと思っていると

告げたら彼はどんな顔をするだろうか。

今すぐ見たい気持ちもあるし、

もう少し黙っておきたい気持ちもある。


(どうせならエポックがいるところで告げようかしら?)


 イースの温かくて大きな手に引かれながらそんなことを考え、

ミラは頬を自然と緩ませたのだった。










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