まどろみの向こう側I


「……あら?」

 女性が声をかけるより先にこちらへ気づき、快活な笑みを浮かべた。

「あなた、アルマね?」

 『ジョーイ』は瞳を見開く。

自分が今『アルマ』であることを完全に失念していた。 苦笑して彼女を見あげる。

「あら、ちがった?」

 そんな反応を人違いだと感じたのか、

女性が幼い子供のように舌をだした。

『ジョーイ』はあわてて首を左右に振る。

「よかった」

 女性がリュックを墓と自転車の狭間に降ろし、微笑む。

「どうしても会いたかったから待ってたの」

「え?」

「だってあなた、わたしの血縁の最期を看取ってくれたんだもの」

 『ジョーイ』は目を瞠った。

老人、いや成長したあの『子供』には、他に身内はないと聞いていた。

けれど、今目の前にいる彼女は確かに名乗った。 自分は彼と血縁である、と。

「まあ、血縁と言っても、たいしたつながりがあるとは、

もう言えないかもしれないけどね」

 女性が肩を竦め、風に吹かれ落ちてきた後れ毛をかきあげる。

瞬間、『ジョーイ』は視界が突如開かれたような錯覚に陥った。

ああ、と呻き身を震わせる。

(そうだ、これだ)

 足りなかったのはこれなのだ。

まだ役目は終わったわけではなかったのだ。

『ジョーイ』は改めて彼女に目をやる。

「どうかした?」

 訝しげに見おろしてくる女性に構わず、息をつめて彼女を見つめた。











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