まどろみの向こう側E
「おかしいのはわかってるはずよ!」
その声は自分の、いや、『アルマ』の母親から発せられたものだった。
驚いて立ち止まった『ジョーイ』は、階段の手摺りの隙間にその小さな顔を寄せる。
するとそこへ、また別の声が聞こえてきた。
「だが君は母親だろう」
なだめるように問いかけるその声は父親のもので、
『ジョーイ』は人知れず溜め息をつく。
声はごく平静で落ちつき払ったものではあったが。
内心は母親同様、
沸き起こる苛立ちを抑えることで精一杯の状態だろうことも、
容易に想像できた。
『ジョーイ』は階段の手摺りに寄り掛かり、
少し迷った後、息を殺して二人の会話に耳を傾ける。
届いてきたのは、母親の涙の入り混じった掠れ声だった。
「でも、あの子は! あの子は……認めて、くれていないのよ……」
「それは、君の方があの子と距離を置いているからじゃないのか?」
とぎれとぎれに呟かれた母の言葉に、『アルマ』の父親は問いかける。
だが母親は何も言わずただ沈黙守り、辺りはしばし重たい空気に包まれた。
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