まどろみの向こう側H
女性を見た瞬間、『ジョーイ』は驚いて息を呑んだ。
茶色のハイネックに青のジーンズ、
背には一際大きな白のリュックサックを背負っている。
見慣れないことからしてやはり旅人なのだろう。
傍らには一台の赤い自転車があり、
女性は心持ちそれに寄り掛かるようにして墓標を眺めていた。
その表情にはなんの憂いも感慨も見受けられず、
瞳にはただ純粋な興味の色のみを湛えている。
少女、と呼ぶにはやや抵抗があるが。
顎の輪郭や雰囲気に若干のあどけなさを残したその面差しからは、
限りない生命力が溢れでている。
『ジョーイ』は我を失いその姿に見入った。
彼女の取り巻く空気もその出で立ちも、
すべてがさながら一枚の絵画のように思える。
晴れ渡る秋の空と黄金色の銀杏の風景に、それはよく映えて見えた。
だが、一際目を惹くのは彼女の長い黒髪だ。
細い紺の紐できりりと一つに束ねられたそれは、
すっきりとした清潔感と流れるようなつややかさ醸しだしている。
とはいえ、全体的に見れば簡素かつ質素なそれに、
『ジョージ』は少しの物足りなさを感じた。
(……なぜ?)
瞬間、予感めいた感情が胸を占めた。
『ジョーイ』は自分でも説明のつかない思いに捕われながら、
女性の元へ一歩近づいた。
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