約束ⅶ
やがて、子供は去っていった。
赤いリボンで束ねた黒髪をなびかせた後ろ姿を、
ジョーイは満足げに眺めた。
これであの子は救われる。
あのリボンは目立つから、きっと誰かが保護してくれるだろう。
ジョーイは手にした人形を抱きしめる。
「キャシー……」
こんなことで、今までの事が許されるわけではない。
家族に、妹に逢えるわけではない。
けれどなぜか心は穏やかで、充足していた。
（父さん、母さん、ごめんなさい。俺はまた一つ罪を犯しました）
何も知らない子供を相手に、果たせるはずのない約束をしてしまった。
（けど……）
ジョーイは静かに、再度傍らの大木を見上げる。
この街にたった一本しかない聖樹。
太古の昔、神話の時代より神が与え給うた銀杏の古木を。
「なぁ、銀杏よ。
お前が真実聖樹だというのなら、俺を本当の魔法使いにしてくれないか？」
瞳から光が永遠に失われる一瞬、
ジョーイは丸裸の銀杏の古木から、
聞えるはずのない葉のささやき声を聞いた気がした。
