第5章 みかん


    <青いうま>
            すす
其処からはいくらも離んでいないのに
とても遠い気がする
もどってゆこうとおもわないけど
決して二度とはもどれない
悲しい
そうではないのにそうおもう


    AOI UMA

 あの星に行こうよ
 どの星? あれは赤い星だよ。赤い星はだめだ。み
んな赤くそまっちゃうよ
 みんな赤いろにそまっちゃうの。あら、すてきじゃな
い。いつも赤いドレスがきれるわ。あなたも、いつも、赤
いいろが好きだっていってたじゃないの
 いや、だめだ 赤いいろは好きだけど、ぼくらは、
ほら、青いうまにのっているんじゃないか 赤い星に
いくと青いうまは死んじゃうんだ
 ほんと? うそでしょう? 青いうまは赤いうまに衣装
がえするだけなんだわ。そしたら、わたしたち、こんどは
赤いうまにのって、こんどは別の色の星にいくの。そした
ら、わたしたち、いろんないろのうまにのれるわ
 いや、ちがう。青いうまはいつまでも青いうまなんだ。
だからむりやり赤くそめようとしたら死んじゃうんだ。死
んじゃったら、消えてしまうんだ。だから赤い星へいくの
はだめだ
 そんなこといったって、わたし、青いうまは一番すき
だけど、あの赤い星にも行ってみたい。それに赤いうま
も好きよ
 それじゃ、ぼくたちは、ここで青いうまから降りて、あ
の星まであるいていこう。そしたら青いうまも死ななくて
すむし、赤い星にもいける
 でも、ここはお空のなかよ。わたしたちここで降りたら
どんどん落ちちゃうわよ。わたし、こわい
 いや、ぼくにつかまっていれば、ちゃんとあるいてい
ける。あの赤い星にだって、どこにだっていけるよ
 どうして? わたしだけなら落ちちゃって、あなたと
一緒なら落ちないの?
 どうしてって、ぼくたちはいつもこうしてくっついて
いなけりゃいけないんだ。どこへいっても、どこにい
ても、いつもこうしてくっついていなけりゃ二人とも死ん
じゃうんだ
 ほんと? わたしたち、ばらばらになったら死んじゃ
うの。いや そんなのいやよ ばらばらになるのも
いやだし、死んじゃうのもいや
 それじゃ、いいかい、この青いうまはぼくたちの最
初のともだちなんだ。だから、まず青い星にいこう
 でも、青い星ってどこにあるの。もうこんなにお空
のずみずみまで飛んでいるのに、いままで青い星な
んてなかったわ
 だから捜すんだよ。青い星がみつかるまで、ぼくた
ちはこの青いうまにのって、さがすんだ
 うん。だったらいつもくっついていられるね。それ
にこの青いうまなしじゃ、さびしいものね。いいわ


    ざくろ

秋の陽よ
ざくろのほほに
君憶う

日なたぼこ
モンステラの影と
共にあり


    うた

涙するきみのうなじりうでのなか
   旅のつかれの一度に出でて


    句、公園で

すいがらのときを得ては地に落ちて
                  かた
眺めては影もみずしてあらぬ方向
              ひと
時がたち時がたちして恋人を待つ

居場所さえわからぬままに待ちあぐぬ

 
太陽かくれ、ただ瞑想のベンチかな
          ひと
タクシーのおりる女はまだ遠い

わらべらのかけゆくさまを追い求む

ブランコのきしむ音さえいらいらと


    蜻蛉取り小春日和の陽炎か

小春日和のうっとりとしたベランダで
日なたぼっこをしていると
赤トンボが一匹まいおりてきて
子供の頃のいたずらっ気で
人さし指をくるくるまわしていると
最初はなにげなくくびをかたむけて眺めていたトンボは
とうとう怒ってしまってしっぽをぴんとたてて
まるでせまってきそうにした
むむっとしてすこしおじたが
なおも指をまわしつづけていると
ぷいっととびたっていってしまった
気がつくと
かげろうでタバコをすっているようにみえる影が
はにかみわらいしていた


    みかん

おなかがすいて

おなかがすいて

みかんがひとつ


    遠くへ行きたい

ふと道で出会った人と
わからぬ言葉で話しかい
ねむくなったら
そこいらでごろりとうでまくらでねる


    前に座っているこ

大きな目がいつもきょろきょろうごいていて
いま何みてるのってきくと
えーっとね、あっち
って答える

パンを食べ終わって
バターをいっぱいくっつけた口を
ぱちぱちとあわせて
おいしかったよ
って答える

ぼくがじっとみつめていると
ちょっとはずかしそうに目を細めて
好きかってきくと
きらい
って答える

かわいくって少しぺちゃんこな鼻を
いつもひとさし指でちょんちょんなでるのくせ
そんなときどうしたのってきくと
うん、なんでもないよ
って答える


    めばちこ

めばちこ
ひとつ
ひだりのめ

ほうさんかって
あらってくれた


    とまった時計

しょぼしょぼ
しょぼしょぼ
ご機嫌いかが
いつもの平気の平定
どこへいった
ねむたいまぶたは
とまった時計

しょぼしょぼ
しょぼしょぼ
しょぼしょぼ
しょぼしょぼ
ガスストーブ


つくる つくる
かけっこ
かくれんぼ
どんどん
よあけはとおい


    歩け

歩く
一人で歩く
とぼとぼ歩く
うつむいて歩く
歩く
歩くことをしなくなって
ぼくはどこかにうかんでいる
うかんだままでとんでいる

歩け
歩け
おまえは歩くことをしなくてはいけない
おまえは歩かなければ
もうおまえではなくなる

歩け
歩け
一人で歩け
とぼとぼ歩け
うつむいて歩け
そして
その歩き方に
胸をはれ