インフレーション8気圧/心臓カテーテル手術奮闘記
2003年5月5日 中西治嘉(55歳男性)
「ただ今からインフレーションを行います。2気圧……、4気圧……、6気圧……、8気圧」。
「はい、うまくいきましたよ。これで終わります」。
足の付け根にカテーテルを挿入してから1時間30分、体力はかなり限界に近づいていた。血管内部は神経が無く、カテーテルなどの動きは分からないと言われていたが、なんのなんのごそごそ動くのが分かり、造影剤の注入と相俟って、現在の我が心臓内部で行われていることが手に撮るようであった。実は最初のバルーンだけのインフレーションではうまく膨れず、ステントを挿入して2回のインフレーションを行い、うまく部位全体の膨張が達成できたようである。しかし狭窄の部位が枝分かれ手前のため、ステント固着による他の枝への流入阻害を防ぐため、最終的にはステントを取り出し、また結果的には細い枝を1本だめにすることになったが問題はないとのことである。
徴候その1
昨年(2002年)11月、肩こりがひどく(右肩のみ)、また頭痛が伴ってきたので産業医のY医院を訪れ、高血圧の治療を行った。確か179-140ぐらいまで上がっていたと記憶している。この時は「ディオバン錠」(選択的AT1受容体ブロッカー)80mgを2錠と名前は忘れたが別の錠剤を3錠、合計5錠を一度に3日間服用し、血圧を一度にとりあえず下げ、後1ヶ月「ディオバン錠」80mgを毎朝のみ続けた。その結果140-110程度まで下がったと覚えている。
しかし、この時は肩こりや頭痛が治ってよかったという程度で、「高血圧症」が「長期間高血圧症を放置すると心血管系に強い負担がかかり、動脈硬化がひそかに進行して、脳出血、脳梗塞、心不全、狭心症、心筋梗塞、腎不全などの重要臓器障害の症状を引き起こし、重い後遺症を残して生活の自由度(クオリティ・オブ・ライフ)を狭めるのみならず、しばしば生死に関わるような事態を招く」という心配は微塵とも頭になかった。
徴候その2
年が明け(2003年)、1月中頃から通勤時間帯に胸の重苦しさを感じ始め、次第に午前8時頃、起床してほぼ2時間後にその症状が定期的に現われ始めた。しかし休日などにはその時間帯が来ても何の症状も現われず、これはストレスであると思い込む。2月初旬の海外旅行中は健康そのもの(なんらの違和感なし)であった。
3月に入り、胸の重苦しさが締め付けられるような痛みと左手の痺れを伴うようになってきたが、その継続時間は2〜3分程度で、大抵清涼飲料水(C1000)を飲むと治まった。
しかし痛みは少しずつひどくなる様子(時間が5分から7分程度継続)で、しかも休日にも次第に現われてきた。この時点で産業医のK医院を訪れた折にK医師に相談したところ「狭心症」(労作狭心症)の疑いが指摘され、総合病院での検査を4月3日に予約して貰った。
検査その1(4/3)
「運動負荷心電図」と「心筋シンチグラフィー」を実施した。
「運動負荷心電図」は運動中におこる発作の心電図を記録するもので、自転車漕ぎを分速70回転で行いその経過中の心電図を記録していく。数分経過で胸の発作が現われた。
すぐさま「心筋シンチグラフィー」で、静脈に注入した造影剤をラジオアイソトープで心臓の全方位断面を記録する。20分ほどかかった。
検査後安静剤(ニトロール)を舌下し、2時間後に安静状態の「心電図」と「シンチグラフィー」を行い、その差異により「虚血性心疾患」の程度を測るのである。
検査結果その1(4/7)
心電図では有意差が認められなかったが、シンチグラフィーでは明確に「虚血性心疾患」が認められた。場所は、冠動脈の「左前下行枝」の6-7番地帯である(上図の「左前下行枝」が指し示すところ)。
しかし、この検査では「狭心症」の疑いが濃厚であることが分かるが、具体的な大きさ(細さ)と確かな部位(位置、長さ)などは分からないので、K医師にお願いして、総合病院での「心臓カテーテル検査」を前程とした診察を予約してもらう。
検査その2および診察(4/14)
診察に先立ち、心電図、血液検査、心臓超音波検査を実施した。
血液検査では、心筋梗塞が生じているかどうか心臓由来脂肪酸蛋白などの生化学的な心筋障害のマーカーを調べ、心臓超音波検査では、左室の機能や、虚血による左室壁運動の低下の有無を調べる。
診察では、狭心症の説明と心臓カテーテル検査の説明がなされ、すぐさまに4月18日の検査を予約した(4/17入院)。
この時点で、「バイアスピリン」の投与が開始された。バイアスピリン錠100mg(BA100)は「血を固まり難くし血栓ができるのを予防する」のである。当面は1日朝食後1回。
検査その3「心臓カテーテル検査」(4/23)
「心臓カテーテル検査」とは、「冠動脈造影」検査で、冠動脈のどこが、どのくらい狭くなっているかを調べるが、具体的には手首の血管(動脈)からカテーテル(catheter導管、直径2mm)を挿入し、心臓まで進めて、血管・心臓の形態を調べて疾患の診断に用いる検査で、どのような治療法が最も適切かを決めるのである。
検査といっても前日からの入院が必要である。現実には4月17日に入院したが、この時点で急性腸炎が見つかり(もちろんのこと前々日から七転八倒の腹痛があった)、この治療に5日間も費やしたのである。1日2回抗生物質の点滴を施された。
なお、検査には医師からの説明と患者の同意書が必要となる。説明では1000分の1以下の重症合併症の危険性が示唆される。
なお、検査は30分ほどであるが、検査後3時間ほど安静が必要である(止血のため)。
また、検査中は心電図、点滴が施される。
検査後造影剤を流すため、水分を最低500ml以上を摂取する必要がある。
検査結果その3(4/24)
あくる日の夕方には検査結果がビデオで説明される。結果は左前下行枝の枝分かれ寸前の部位で、その直径は0.5〜0.7mm程度で、いつ心筋梗塞が起きても不思議がない細さとのことであった。普段の冠動脈の直径は3〜4mmである。
上の写真は参考図であるが、私自身の状態と非常に近い。
結果を見ながら、医師と患者は治療法の検討を進め、明らかな狭心症であるが、国立循環器病センターでもすぐに「バイパス手術」ではなく、カテーテルによる血管膨張を試みるはずだとの説得がなされ、すぐさま4月28日の手術を予約する。
これにももちろん、説明と同意書を作成するが、危険性の確率は100分の1に上がる。
手術(心臓カテーテル)(4/28)
検査でのカテーテルとは違い、こんどは大腿部の付け根あたりからカテーテルを挿入する。
前回は車椅子で手術室まで運ばれたが、こんどはストレッチャーで運ばれる。別に急がなくてもいいのに、映画なみに人をかき分けすごい速さで移動し、目を開けると眩暈がするほどであった。
手術前に尿管を入れ、点滴を開始する。
部位が細く(0.5〜0.7mm)、長く(3〜4cm)、カテーテルのバルーンがうまく入らず、一挙に膨らませることができなく、ステントとバルーンを併用して膨張(インフレーション)させる。風船(バルーン)で一度に膨らませると破れたり、歪(いびつ)になる可能性が高かったのである。
これら手術中の声がすべて聞こえ、造影剤が苦しく、「相当体力が消耗しつつあります」と申し入れる。それからもおそらくもう少しと言いつつ、結果は90分の時間を要した。
「ただ今からインフレーションを行います。2気圧……、4気圧……、6気圧……、8気圧」。
「はい、うまくいきましたよ。これで終わります」。
いままで細かった部位が、無事前後の血管の太さで流れていた。
手術は成功し、狭心症が取り除かれた。再狭窄の可能性が残っているので、後はできるだけ動脈硬化を起こさない日常管理が必要となる。
投薬は「バイアスピリン」100mgと「ヘルベッサーRカプセル」100mgを1日2回(朝夕食後)、それに通常の「ガスター」D20mgを寝る前に1錠、これを当分続けることになる。
多くの医師ならびに看護士の方々、それに応援していただいた多くの方々にお礼を申し上げます。
(写真はすべて参考写真である)。