addiction

 

 

 

となりで惰眠を貪っていたはずの番犬が、もぞもぞと身じろいでいる。

飼い主の眠りを妨げぬよう、でかい図体をそーっと動かすその努力も、
悲しいかな薄給独身男のベッドでは、まるで水の泡で。

軋むベッドスプリングに揺さぶられて、シーツの海からむくっと顔を上げた
ロイの目に映ったのは、暢気に煙草をふかす金色の犬。

「あ、起こしちゃいました?すんませーん」

一気に全開したロイの不機嫌モードは気にも止めずに、へらへらと笑う。

「おまえは、また…」

「これがないといられないもんでね」

チリっと眉根を寄せたロイが徐に体を起こして、白く細い煙の立ちのぼる
寝起きの一本を、ハボックの手から奪い取ろうとする。

しかし、いかんせんリーチで勝っているこの部下は、左手で貴重な一服を
確保しつつ、空いた右腕で肩口からロイを丸ごと抱え込む。

「ちょっと、やめて下さいよ、勿体無いでしょうが」

「離せ、この筋肉馬鹿!」

必死で振り解いたその腕の力強さに、自分との体格差をまた嫌というほど
思い知らされ、ロイは不機嫌な表情のまま腕組みしてふんぞり返った。

「一本だけっすから、ね、ゆっくり味わわせて下さいよ」

いつものにやけ面で微笑みながら、再びハボックは満足そうに煙を吐き出す。

「相変わらずムードのムの字もないやつだな!」

「この一服のためなら、ムードなんてどうでもいいっすよ」

「そんなものに嵌っているから女性にもてないんだ!」

「ま、煙草だったら、どんな上物でもあんたに掻っ攫われる心配ないっすから」

「…おまえを殺すには、煙草を取り上げるのと、今以上に吸わせるのと、
どっちがより確実で早いのかな」

「すました顔して恐ろしいこと言わんで下さい。あ、もしかして、妬いてんの?」

「いや、不憫だなあと思ってな。犬のくせにニコチン中毒とは」

「すんませんね、せいぜい哀れんで下さいよ、ご主人様」

情けない声で言いながらも、青い目を細めて吸いつづける。その恍惚とした
表情に、ふーっと大きなため息をついて、ロイはハボックに背を向けると再び
シーツの海に潜り込んだ。

不貞腐れた背中を横目でチラッと見ながら、あ、こりゃ当分浮上してこないな、
と高を括ったハボックは、一本目の吸殻を灰皿に押し付けると、そーっとベッド
サイドの煙草に手を伸ばし、もう一本取り出してそろりと火をつけた。

 

埋もれていたシーツから顔だけ出して、ロイがこちらをじろりと睨む。

「嘘つきが」

「男なんてもんは、みーんな嘘つきでしょうが」

「屁理屈だ」

「あんたと一緒にいるから、なかなか巧くなったでしょう」

「馬鹿犬め」

「へいへい、馬鹿で結構」

憮然としていたロイが、急にニヤリと笑って身を起こす。

「いいことを思いついたよ、ハボック少尉」

「またロクでもないことでしょう、どうせ」

「可愛い部下の健康と幸せを願って、明日から我々の執務室は禁煙とする」

「…この陰険上司」

「中尉が喜ぶぞ。女性の髪や服に無粋な煙草の匂いが染み付いては可哀想
だからな。いやあ、我ながら名案だ」

「性悪」

 

物騒なやりとりを交わしてはいても、その言葉自体に棘はない。
かすかに微笑んで二本目を味わっていたハボックが、ふと問い掛ける。

 

「ねえ、あんたは、これがなきゃいられない、ってもん、ないんすか?」

 

刹那、眼前に広がる真っ白なシーツの波を凝視したロイは、ふっと笑って
ぽつりと言った。

「美しい女性たちとの時間、かな」

「さーすが、色男はおっしゃることが違う」

「麗しいご婦人方の存在そのものが活力の源なのだよ」

「さいざんすか。ったくもう、この女誑し!」

「やっかみにしか聞こえないというのは、寂しいものだな」

「色男ってのは、ふつう金も力もないはずなんだけどなあ」

「普通じゃないんだろうな、私は」

「自分で言いますか、それ」

二本目の煙草は、吸ってもあと一口、二口というところまで短くなっていた。
ぷかりと漂っていく煙を見ていたロイは、いきなりハボックの指に挟まれた
煙草に口をつけると、思いっきり吸い込んだ。

勢いよく流れ込んできた強い煙と味と香りに、顔を歪めて苦しそうに咳き込む。

「何やってんすか。普段吸わない人にはキツすぎますよ、これ」

ハボックが慌てて背中を摩ってやったが、少し息が収まると、彼の左手首を
掴んでロイはまた強引に吸った。

「ちょ、やめろってば、苦しいだけでしょうが、もう!」

 

苦しくったって、もう、やめられない。

おまえのこころもからだも満たすものが、どれほどのものなのか。

自分自身で確かめるまで、やめてなんかやらない。

 

最後の煙を吸い込んだままハボックにキスすると、ロイはその喉奥めがけて
ふーっと勢いよく煙を吐き出した。
一瞬の出来事に目を見張って、今度はハボックが盛大に噎せ返る番だった。
ゲホゲホと苦しげな部下の手からまんまと煙草を奪って、クスクスと笑いながら
ロイは吸殻を灰皿にねじ伏せる。

「頭おかしいんじゃないんすか、あんた?」

涙目で睨むハボックを、悪魔のような微笑でロイが迎え撃つ。

「今ごろ気付いたのか?」

 

もう、とっくにおかしくなっているよ。

おまえを知ってしまったときから。

こころもからだも、違う次元で回り始めているようだよ。

 

ふん、と鼻で軽く笑ったハボックが、先程よりももっと強い力で抱き締めてくる。
ロイのうなじに頬を擦り付けて、ゾクッとするような低い声で、ゆっくりと囁く。

 

「ほんと、おイタが過ぎますよ、ご主人様」

「たまには遊んでやらんとな。犬だって退屈は嫌いだろう」

「きっちりお仕置きしてあげますからね。覚悟して下さい」

 

抱きしめられたまま、ロイのからだはベッドに沈められていく。

 

「ふん、駄犬の分際で生意気な」

 

ロイの耳元を掠める吐息に、かすかな笑いが混じる。

 

何が可笑しいのか、今は追及しないことにしてやろう。

わざと音を立てながら、あちこちに落とされる、唇の熱。

首筋を、脈打つ血管をなぞって下りていく、煙草の香り。

当然過ぎるくらい、いつもここにある、おまえの証に煽られて。

今回は、また格段と楽しいお仕置きになりそうだ。

 

くすぐったさに身を捩るロイを、青い双眸が捉える。

雄犬の色を濃くした瞳の奥に、あの優しい光を見つけて。

からだの中心から、触れあう部分から、カーッと火照り出す。

こうなったら、もうとめられない。

ほかに代るものがない、あの感覚に辿り着くまでは。

 

いまだ強く残るあの香りを舌に感じながら、ぼんやりとロイは思う。

 

自分にとってなくてはならないもの、か。

そうだな、たぶん。

こうしておまえと戯れる時間かな。

口が裂けても、教えてなんかやらないが。

 

 

 

  

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05/1/2005
ハボロイ
ハイ、久々のssバカップルでございますー。
今回も「ちゅう」だけでは収拾がつかなくなってるようですねー。
昨年末、熱を出して寝込んでいた日の夜中に、目が醒めて打ち込んだネタです。
熱に浮かされた頭で何を考えとんのじゃー、と自分にツッコミたくなりました。
いやはやもう、私も相当なイカレポンチでんなー。あはははは。
大掃除ほっぽりだして何やってんのー、って、誰か叱ってくれー。
なんか密やかにMYヱ露祭開始、って感じがふつふつと…。

 

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