博士と助手

蚊の話
ネッタイシマカ(デング熱媒介) ハマダラカ(マラリア媒介)

2004年10

助手: 博士、もう雨季は終わりでしょうか。
博士: そのようじゃな。これからは蚊の発生に十分注意が必要じゃ。
助手: けっこういますね。私も空港で何回か刺されました。
博士: 蚊が媒介する疾患で注意しなければならんのは、デング熱、マラリア、日本脳炎等じゃ。特にデング熱は昨年デリーでも大流行し、感染者数3,000人以上、死亡者も34人と報告されている。
助手: 邦人でも患者が発生したようですね。
博士: うむ、幸い重症な例はなかったようじゃが、今年も要注意じゃ。9月初めの時点ではデリー市内の報告数はまだ十数名にしかすぎないが、市が調べたところでは蚊の発生率は昨年を上回っているとの事じゃ。
助手:

蚊の種類としてはどんな蚊が要注意なんですか?

博士:

デリー市内でデング熱を媒介しているのはネッタイシマカ(Aedes Aegypti)というもので、水たまりで成育し、早ければ卵から成虫になるまで9日間しかかからない。

助手:

それで、1週間に1度は家の周りを清掃して、水たまりが出来ていないかチェックしましょうと新聞でもキャンペーンしているんですね。

博士:

そうじゃ。空き缶、放置された植木鉢やタイヤ、エアコンの室外機(特に水冷式)などに貯まった水も、10日も放置すれば蚊の発生源になってしまう。

助手:

デング熱の症状は発熱でしたよね。

博士:

うむ。数日間にわたる38度以上の発熱、関節痛、筋肉痛、疲労感などじゃ。そして解熱する時期に赤い湿疹が出現する。この時期に血小板数が下がるが、酷い場合には出血傾向が出て、全身から出血したり、ショック状態に陥る。治療薬は無いが、早い時期に適切な点滴等の処置を行えばそれほど心配はいらない。

助手:

早期に医療機関に受診する事が重要なんですね。

博士:

それと、一番大事な事は蚊に刺されない事じゃ。ネッタイシマカは昼間、それも朝方と夕方日没前が要注意と言われているが、外出する際には虫除けクリームなどを露出した肌に塗ることが重要じゃ。

助手:

虫除けクリームはインド製でも大丈夫ですか? 日本製の物はどうですか?

博士:

DEETと呼ばれる成分が含まれているものが推奨されている。日本の物はやや濃度が低い(10%)ので、2時間間隔くらいで繰り返し塗る必要がある。またインドではN-Diethyl Benzamideが含まれているOdomosなどという製品が販売されている。どれでもそれなりの効果は期待できる。

助手:

昼間の蚊であれば、夜の蚊は心配いらないですね。夜の蝶には注意していますが・・・

博士:

デリーのどこに夜の蝶がいるんじゃ。教えてもらいたいもんじゃ。・・・ともかく、夜の蚊も安心ではない。デリーでは今年マラリアの発生も多く報告されている。このマラリアを媒介する蚊はハマダラカ(anopheles)で日没後、夜に吸血行動をとる。

助手:

そうすると、昼も夜も蚊には刺されない方が良い、という事ですね。

博士:

そうじゃ、できればこの季節(気温が下がる11月末まで)は、家の各部屋に電気蚊取り、(All Out等)を一日中セットしておいた方が無難じゃな。

助手:

電気蚊取り器に関しては日本の物は効果が少ないとも聞いていますが?

博士:

そんな事はない。しかし部屋の広さ、天井の高さを考えた場合には体積が日本の部屋とは比べ物にならないはずじゃから、各部屋に一つでは足りないかもしれんな。

助手:

そうですね。日本の四畳半の部屋なら一つで十分ですけど、こっちの一軒家では、その何倍も広さががありますよね。

博士:

家のドア、窓には防蚊ネットをとりつける。家の中はエアコンはオンにして室温を下げ、蚊取り器を24時間セットしておく。家の周りも週1回は清掃し、水たまりを放置しない。外出する際は明るめの色の長袖、長ズボンを着用する。そして肌の露出した部分には、虫除けクリームやスプレーを数時間おきに塗る。以上が蚊に刺されないための対策じゃ。

助手:

博士、野口英世で有名な黄熱病も蚊が媒介するんですか?

博士:

そうじゃ。これも蚊が媒介する。黄熱病はアフリカや中南米で流行しており、渡航前に証明書が必要じゃ。しかし最近インドでは黄熱ワクチンの在庫が少なくなっており、旅行者が困っているという記事が新聞に出ておったな。

助手:

黄熱病はアフリカや中南米ですか。珍しくインドにない病気の一つなんですね。

博士:

そうじゃな。しかしワクチンの不足が続くと偽ワクチンや偽証明書が横行し、インドからの渡航者が黄熱病にかかり、それが逆にインドに持ち込まれるケースが懸念されている。ワクチン不足は早急に対応してもらいたいものじゃ。

助手:

そうですよね。新聞に出ていましたが、アフリカに出かける要人用に確保しているので一般の旅行者に回ってこない、というのでは困りますよね。

博士:

その他、蚊が媒介する病気として最近問題になっているものに西ナイル熱がある。

助手:

アメリカで被害が出ているそうですね。

博士:

うむ、元々はウガンダのWest Nile地方の風土病じゃったが、現在はヨーロッパやアメリカで猛威をふるっている。脳炎を起こして死亡するケースがある。

助手:

ワクチンや治療薬はないんですか?

博士:

そうじゃ、デング熱も西ナイル熱もまだワクチンは完成されておらん。ワクチンが完成されているのは、今回挙げた病気の中では、黄熱病、日本脳炎だけじゃ。ワクチンのある物は事前に接種しておく事が感染症の宝庫たるインドに住む我々の最低限の防御法と言える。

助手:

改めて聞きますが、インドではどんなワクチンをしておいた方が良いのですか?

博士:

これから冬に流行する事が予想されているインフルエンザ、薬剤耐性が問題になっている腸チフス、デリーやムンバイでも報告されたポリオ、100%致死率の狂犬病、劇症化もあるA型・B型肝炎、破傷風などが必要じゃ。

助手:

・・でも、随分たくさんありますね。蚊に刺されるよりは相当痛そうですけど。

博士:

病気になって、インドの病院で何本も注射されるよりはましじゃろう。

助手:

・・でも、インドの病院でワクチンを受けても大丈夫ですか?

博士:

医務官が紹介している病院なら大丈夫じゃろう。ワクチンは外国製であり、注射器も当然ディスポを使っておるから、注射で感染の心配はない。

助手:

・・でも、ワクチンの保存方法は大丈夫なんでしょうか?

博士:

病院では、きちんと冷蔵庫で保存されているぞ。

助手:

・・でも、移送の間はどうなんでしょうか? 空港や港で、野ざらしになっていないでしょうか?

博士:

まあ、たいていのワクチンは、常温でも効果はそれほど落ちないとされているが。

助手:

・・でも、インドの気温は常温ではないですよ。40度超えますからね。

博士: うーん、確かにな。そんなに心配なら日本で接種してきなさい。
助手: やったー、日本に帰れる。
博士: なんじゃ、それが目的じゃったのか。長いフリじゃったな。
 
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