2.どうやって測るの?



 a.公定法について
 b.サンプリング(採取)について
 c.前処理について
 d.分析について


a.公定法について


 平成11年7月にダイオキシン類対策特別措置法が成立し、環境基準及び排出基準が定められ、環境モニタリング調査や特定施設での測定が義務付けられた。 ダイオキシン類の分析方法は、媒体ごとにJIS法やマニュアルが作成され、それらに従い分析され、ダイオキシン類毒性等量(TEQ)が算出される。

 表1に現在使用されている主なダイオキシン類の分析方法を示す。


 表1:主なダイオキシン類測定方法
平成11年9月JIS K 0311 排ガス中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定方法経済産業省
平成11年9月JIS K 0312 工業用水・工場排水中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定方法経済産業省
平成13年8月ダイオキシン類に係る環境大気調査マニュアル環境省
平成12年1月ダイオキシン類に係る土壌調査マニュアル環境省
平成12年3月ダイオキシン類に係る底質調査マニュアル環境省
平成10年8月大気降下物中のダイオキシン類測定分析指針環境省
平成10年9月ダイオキシン類に係る水生生物調査暫定マニュアル環境省
平成10年7月野生生物のダイオキシン類汚染状況調査マニュアル自然環境研究センター
平成12年12月血液中のダイオキシン類測定暫定マニュアル厚生労働省
平成12年12月母乳中のダイオキシン類測定暫定マニュアル厚生労働省
平成13年4月廃棄物焼却施設内作業におけるダイオキシン類ばく露防止対策要綱
別紙1空気中のダイオキシン類濃度の測定方法
厚生労働省
平成4年7月特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物に係わる検定方法厚生労働省
平成11年10月食品中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定方法暫定ガイドライン厚生労働省


 これら測定分析方法は、それぞれの媒体ごとに、試料の採取が行われ、その後試料からの適切な抽出、前処理及びGC-MSの順で行われる。前処理からの分析方法は、概ね統一されている。




b.サンプリング(採取)について


 ダイオキシン類の試料採取では、測定対象となる試料の代表性をもつサンプリングが必要である。これから代表的な試料対象について、そのサンプリングの例を挙げていきたいと思う。


 1.排ガス試料

 排ガス試料の採取装置の一例を挙げる。
 

 排ガス試料の採取装置全体は、採取管部(ノズル)→ダスト捕集部(円筒ろ紙)→ガス捕集部(上記装置)より構成されている。

 なお各箇所での注意点は、以下のとおりである。


a)採取全般 ガス捕集部(上記装置)の液体捕集部(水)と吸着捕集部(吸着剤)に添加したサンプリングスパイクの回収率が70~130%であること。
試料採取の1時間前からCO及びOの連続測定を行う。
組み立て時、採取中に漏れ試験を行う。
排ガスの流速に対して相対誤差-5%~+10%範囲で等速吸引する。なお60分ごとに等速吸引を調節することが望ましい。(ただしダスト濃度が1mg/m3N以下の場合は等速吸引しなくて良い。)
 
b)採取管排ガス温度に応じてホウケイ酸ガラス又は透明石英製とする。
排ガス温度が500℃以上のときは、冷却プルーブ等で十分に冷却する。
 
c)ダスト補集部JIS Z 8808に規定する2形のダスト捕集器を用いる。(ろ紙部が煙突の外側にある。)
ダスト量が少ない場合は、省略できる。
円筒ろ紙温度が120℃以上では冷却する。
 
d)ガス捕集部吸着剤カラムにはスチレン-ジビニルベンゼン共重合体を洗浄・乾燥したものを40~70g充填しガラスウールなどで動かないように固定する。
液体捕集部は、各吸収瓶を5~6℃に保つ。
吸着捕集部は、必ず30℃以下とする。

 2.水試料

 試料採取に使用する器具等は、使用前にメタノール等でよく洗浄しておく。
 排水など1日の水質変動の大きい場合は数回に分けて採水する混合試料(コンポジットサンプル)を考慮する必要がある。
 

・試料容器ガラス製又はステンレス鋼製容器を用いる。
密栓できるスクリューキャップ等のものを使用し、ゴム製・コルク製のものは使用しない。また満水にしない。
 



・採水器ステンレス鋼製などの内壁に吸着しないものを使用する。
再利用する際は、有機物・油脂類などで汚れやすいので、毎回洗浄に注意する。


 3.環境大気試料
 

 環境大気に用いる採取装置は、右図に示すハイボリュームエアサンプラーを用いる。
 ろ紙ホルダー部分に石英ろ紙をセットし粒子状ダイオキシン類を、PUF用ホルダー部にポリウレタンフォームをセットしガス状ダイオキシン類を捕集する。
 年平均値を求めるために四季を通じて測定を数回行い、測定の際は24時間または1週間サンプリングを行う。

 ・ハイボリュームエアサンプラー
  高さ1227mm
  シェルター(屋根)417mm
  脚幅575mm
 ・ろ紙ホルダー220×254mm
 ・PUF用ホルダー内径84×長さ200mm
 ・ポリウレタンフォーム直径90×厚さ50mmを2個


 4.土壌試料
 土壌試料の場合は、採取地点・採取方法などを調査目的に応じて決めなければならない。
 基本的には、1地点5ヵ所の混合法(5地点等量混合)で、中心及び十字方向4ヵ所(中心から半径5~10m)のサンプリングで行われる。深度方向は、0~5cmのコアサンプルが基本となる。水田や農用地は避ける。
 また混合試料は、孔径2mmのふるいで振るい分け後分析試料とする。強熱減量も同時に測定しておくとよい。




c.前処理について


 試料採取から分析までの簡単なフロー(流れ)を下記の図に示した。













  1.抽出操作

固形試料ソックスレー抽出
固形試料の抽出は、右図の装置を利用したソックスレー抽出が一般的である。
サイフォン効果利用した抽出器でダイオキシン類分析では、乾燥した試料を16時間以上トルエンなどの有機溶剤で抽出する。
液体試料液-液抽出
液体試料の抽出は、右図のような試料液-容器溶剤ダイオキシン類の分配係数の差を利用した(油に溶けやすい)液-液抽出が一般的である。
試料液 約1Lに対して、約100mlのジクロロメタン(又はトルエン)で3回(10回)抽出する。
固 相 抽 出
液体試料の抽出は、右図のような抽出用固相を利用した固相抽出もある。
有機溶剤でコンディショニングされた抽出用固相に試料液を約100ml/minで通水し抽出用固相にダイオキシン類を吸着させ、ソックスレー抽出で抽出する。
この方法の利点は、有害な有機溶剤(特にジクロロメタン)をあまり使用しないことにあるが、油分などを含んだ試料だとダイオキシン類が吸着せず流れてしまう危険性がある。



  2.クリーンアップ

 ダイオキシン類分析に限らず、微量分析のためにはクリーンアップは必要不可欠である。ダイオキシン類は比較的安定なため様々なクリーンアップが適用される。

 代表的なクリーンアップ手法とその除去目的を表にした。そしてここに書かれているシリカゲルを組み合わせた除去方法として多層シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのクリーンアップ手法もある。

   
クリーンアップ手法主な除去物質・目的
DMSO(ジメチルスルホキシド)処理油状試料からの芳香族化合物の選択的抽出と油の除去
硫酸処理(液-液洗浄、H2SO4シリカゲル)大部分のマトリックスの分解除去、着色物質、PAHS
アルカリ処理(液-液洗浄、KOHシリカゲル)フェノール類、酸性物質、脂質、たんぱく質
AgNO3シリカゲル、活性化銅含S化合物、DDE、脂肪族炭化水素類
シリカゲルカラムクロマトグラフィー強酸性物質、着色物質
アルミナ(又フロラジル)カラムクロマトグラフィー低極性物質、PCBS、PCN、有機塩素系農薬
活性炭カラムクロマトグラフィー共平面構造な化合物の選択的分取、PCDE類、生体由来成分、多くの妨害物質
HPLC(順相・逆相・GPC)
その他online HPLC
活性炭(PGC)、PYE、NPE
高精度なクリーンアップ、選択的分取





d.分析について


 ダイオキシン類分析に用いるGC/MSは、以下の挙げる性能を満たしているものでなければならない。

GC試料導入部
スプリットレス方式又はオンカラム注入方式
(改良型のPTV又はLVI方式でもよい)
最高使用温度 250℃以上(カラムによっては300℃程度)
 
カラム
内径:0.25~0.32mm、長さ:25~60mの溶融シリカ製のキャピラリーカラム
キャリヤーガス:純度 99.999%以上の高純度ヘリウム
カラム恒温槽:温度制御範囲が50~350℃であり、昇温プログラム可能なもの。
 
MS 方式:二重収束型
分解能:10000以上(場合によっては12000以上必要)
イオン検出方法:ロックマス方式によるSIM法
イオン化方法:電子衝撃イオン化(EI)法
イオン源温度:250~300℃
イオン化電流:0.5~1.0mA
電子加速電圧:30~70V
イオン加速電圧:5~10kV


 あまりこれ以上細かく述べても切りがないのでダイオキシン類分析でもっとも重要であろう内標準物質添加法について述べたいと思う。


 内標準物質添加法

 まず内標準物質とは目的元素と物理的・化学的性質のよく似たもので、分析試料中に加え目的元素との濃度指示値の比を求めて検量線作成などに使用される物質である。ダイオキシン類分析では炭素の質量数13のものや塩素の質量数37の同位体などが使用される。

 ダイオキシン類分析では、試料採取時に添加するサンプリングスパイク、抽出又はクリーンアップ時に添加するクリーンアップスパイク、そしてクリーンアップ終了後GC/MS測定試料に添加するシリンジスパイクがある。

 サンプリングスパイク、クリーンアップスパイクを添加することによって、最終に添加するシリンジスパイクとの濃度比(サンプリングスパイクはクリーンアップスパイクと比べる)がよく性質の似ている目的元素(試料中のダイオキシン類)直接反映されると考えている。(例えば、クリーンアップスパイクの回収率80%なら試料中のダイオキシン類も実際の80%になっているという考え方。)

 これらの標準物質及び天然に存在するNATIVE(C=12、Cl=35)標準物質との間で検量線を作成し回収率、試料濃度を算出する。