1.ダイオキシン類とはなにか?



 a.ダイオキシン類の種類と構造
 b.ダイオキシン類の性質
 c.毒性等価係数(TEF)とは?
 d.ダイオキシン類の生成機構
 e.ダイオキシン類耐容一日摂取量(TDI)


a.ダイオキシン類の種類と構造


 一般的にダイオキシン類というのは、ポリクロロジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDDs)、ポリクロロジベンゾフラン(PCDFs)、コプラナーポリクロロビフェニル(Co−PCB)の総称のことである。 これらの化学構造は(図1)に示したとおりである。


1)ポリクロロジベンゾ-パラ-ジオキシン2)ポリクロロジベンゾフラン3)コプラナーポリクロロビフェニル
PCDDsPCDFsCo−PCB

図1 : ダイオキシン類の化学構造


 3)に示すように二つのフェニル基が結合したビフェニルの水素が塩素に置換されたもので、塩素の置換できる炭素は10あり、2〜6と2’〜6’の形で番号付けされている。塩素の数とその位置により209種類もの異性体が存在する。このうち、オルト位の塩素が0〜2個で四塩素化物以上のPCBsは、PCDDs,PCDFsと同様に、二つのベンゼン環が共平面構造を示すことから、コプラナーPCBと呼ばれている。




b.ダイオキシン類の性質


 ダイオキシン類の一般的な性質(一部Co−PCBは該当しない)としては、分子量が大きく、常温で無色の結晶であり、融点は高い。そして蒸気圧は非常に小さく、ヘンリー定数が非常に小さいことから水に溶けにくく、大気中から水に溶け込む割合が非常に小さいことがわかる。

 また有機溶剤などへの溶解性を表すオクタノール/水の分配係数(Kow)はかなり大きい。ゆえに脂溶性の大きな化合物であることを意味し、同時に水・土壌中等での有機炭素化合物への分配・濃縮のされやすさ、また水生生物等に濃縮されやすいことを示している。

 以下にPCDDs、PCDFs及びPCBsについての報告されている分子量・融点・常温での蒸気圧・ヘンリー定数の値を示す。

 同族体分子量(MW)融点(℃)蒸気圧(Pa)ヘンリー定数
(atm/mol・m3
オクタノール/水分配係数の対数
(log Kow)

C
D
D
s
TeCDDs319.9305.55.8×10-73.2×10-57.38
PeCDDs353.9240.55.8×10-82.6×10-67.95
HxCDDs387.8264.59.1×10-91.2×10-58.70
HpCDDs421.8285.52.5×10-97.5×10-68.70
OCDD455.7325.52.5×10-107.0×10-98.70

C
D
F
s
TeCDFs303.9227.53.3×10-68.6×10-66.17
PeCDFs337.9196.53.9×10-76.2×10-66.56
HxCDFs371.8237.32.4×10-81.0×10-57.00
HpCDFs405.8229.04.7×10-81.0×10-57.92
OCDF439.7259.04.7×10-91.0×10-510.2

C
B
TeCBs292.0100±200.063.2×10-36.1
PeCBs326.4100±200.012.3×10-46.4
HxCBs360.9130±201×10-47.0×10-57.1
HpCBs395.3140±201×10-45.6×10-56.7



c.毒性等価係数(TEF)とは?


 Toxicity Equivalency Factorといい、WHO等が長期毒性、短期毒性、生体内及び試験管内の生化学反応の試験などにより,最も毒性の高いとされる2,3,7,8-TeCDDsの毒性を基準値"1"として、その他のダイオキシン類の毒性を相対的な係数で表したものである。
 下記の表に示した毒性等価係数(TEF)は、1997年にWHO/IPCSから提案され、1998年に正式決定されたものである。 しかし常に再評価が行われ、新たな知見によって改訂される可能性がある。

 また分析して得られた個々のダイオキシン濃度(実測濃度)に、TEFを乗じた値を加算した値、つまり2,3,7,8-TeCDDs毒性等量(TEQ:Toxicity Equivalency Quantity)に換算された値(TEQ濃度)によって一般的に評価される。 ※しかしTEQは、計量法の対象外(特定計量を含めて)である。


異性体略 号TEF
PCDDs 2,3,7,8-TeCDD 1
1,2,3,7,8-PeCDD 1
1,2,3,4,7,8-HxCDD
1,2,3,6,7,8-HxCDD
1,2,3,7,8,9-HxCDD
 0.1
 0.1
 0.1
1,2,3,4,6,7,8-HpCDD 0.01
OCDD 0.0001
PCDFs 2,3,7,8-TeCDF 0.1
1,2,3,7,8-PeCDF
2,3,4,7,8-PeCDF
 0.05
 0.5
1,2,3,4,7,8-HxCDF
1,2,3,6,7,8-HxCDF
1,2,3,7,8,9-HxCDF
2,3,4,6,7,8-HxCDF
 0.1
 0.1
 0.1
 0.1
1,2,3,4,6,7,8-HpCDF
1,2,3,4,7,8,9-HpCDF
 0.01
 0.01
OCDF 0.0001







ノンオルト体3,4,4',5-TeCB
3,3',4,4'-TeCB
3,3',4,4',5-PeCB
3,3',4,4',5,5'-HxCB
 0.0001
 0.0001
 0.1
 0.01
モノオルト体2',3,4,4'5-PeCB
2,3',4,4',5-PeCB
2,3,3',4,4'-PeCB
2,3,,4,4',5-PeCB
2,3',4,4',5,5'-HxCB
2,3,3',4,4',5-HxCB
2,3,3',4,4',5'-HxCB
2,3,3',4,4',5,5'-HpCB
 0.0001
 0.0001
 0.0001
 0.0005
 0.00001
 0.0005
 0.0005
 0.0001



d.ダイオキシン類の生成機構


 ダイオキシン類の排出源としてよく知られているのは各種廃棄物の焼却炉である。ダイオキシン類は、有機物、炭素、フライアッシュ等と塩素が共存する条件で生成するというメカニズムが推定されている。一方、塩素を含む有機化合物(クロロフェノール、有機塩素系農薬など)の製造に伴い不純物として生成するために、製造工程あるいは使用に伴い環境中に排出される。
 わが国におけるダイオキシン類の年間排出量は、平成9年が、7300〜7550g-TEQ、平成10年が、3310〜3570g-TEQ、平成11年が、2620〜2820g-TEQと推定されており、そのほとんどが大気への排出、つまり始めに挙げた廃棄物の焼却による燃焼であり、約90%を占めている。このほか、製鋼業・亜鉛回収業・アルミニウム合金製造業等の産業系発生源、タバコの煙、自動車排気ガスなど様々な発生源があり、平成11年の産業系発生源からの年間排出量は約292-TEQと推計されている。

 また上記のような発生源における主な生成機構として、a)前駆体からの有機化学反応による生成、b)デノボ合成による合成、c)熱分解反応による生成が挙げられる。

a)前駆体からの有機化学反応による生成
 基本的な反応としては、塩素化反応、縮合反応(カップリング反応)及び酸素反応がある。
塩素化反応:母体の炭化水素に塩素や塩化リンなどの塩素化試薬を反応させて、ダイオキシンを生成する反応である。 以前大量に使用されたPCBs製品の合成、パルプ製紙工場での副産物として合成されるのが、この反応機構である。
縮合反応 :クロロベンゼン類、クロロフェノール類、クロロジフェニルエーテル類が熱反応によってカップリング反応しダイオキシン類になるもの。農薬の2,4,5-T除草剤のペンタクロロフェノール(PCP)やクロルニトロフェン(CNP)の合成時に副生されるのがこの反応機構である。
酸化反応 :酸素原子を分子内に取り込む反応。PCBs→PCDFsに、クロロベンゼン類→PCDDsになる反応機構が該当する。
b)デノボ合成による合成
 デノボ(de novo)とは新しいものという意味で、一般的に低温(300〜500℃)での炭素からのダイオキシン生成をデノボ合成と呼ぶ。 また炭素数の小さなフラグメント(アセチレンなど)が複数個会合して、ダイオキシン類が生成する反応もデノボ合成に含まれる場合が多い。つまり定義があいまいなのである。
 デノボ合成では、反応に関与するラジカル種や不完全燃焼で生じる粒子状炭素の濃度が高いことが必要であるため、炭素粒子やフライアッシュなどの吸着表面で起こりやすい。 銅や鉄などの触媒となる物質が生成機構に大きな役割を果たす。
c)熱分解反応による生成
 ここでいう熱分解反応は、ベンゼン骨格を含む高分子化合物が熱によって部分的に開裂して、ビフェニルやジベンゾ-パラージオキシン、ジベンゾフランを生成する反応のこと。
 草木や紙などに含まれるリグニン構造やポリスチレンなどのベンゼン骨格を有する分子の燃焼時に塩素源が存在すれば、この反応機構で生成する可能性が高い。



e.ダイオキシン類耐容一日摂取量(TDI)

 一日につき摂取し続けても健康に影響が出ないでないと考えられている基準のことで、一般的にpg-TEQ/kg・dという単位で表わされる。これは、一日につき体重1kgあたりの耐容量を示し、例えば体重50kgの人であれば、その50倍の値が耐容摂取量となる。
 早くはオランダで1982年(昭和57年)にTDIを4pg-TEQ/kg・dとしたのが始まりだが、わが国では1995年11月に厚生省が「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班」を設置し、1996年6月に初めてTDIの名のもとに10pg-TEQ/kg・d(TDI 1996)を報告した。また1997年5月環境庁が許容限度としてではなく、積極的な維持水準として5pg-TEQ/kg・dを「健康リスク評価指針値」とした。
 その後、1998年5月のWHOヨーロッパ地域事務局及びIPCSのTDIの見直し、1998年6月のWHOの1〜4pg-TEQ/kg・dの勧告などを精査した上で、1999年6月に中央環境審議会・生活環境審議会・食品衛生調査会が4pg-TEQ/kg・d(TDI 1999)を当面のTDIとすることが適当である旨を報告した。

事      項
1982
1990
1995.11
1996.6
1997.5
1998.5
1998.6
1999.6
初めてオランダで TDI 4pg-TEQ/kg・d
WHOで TDI 10pg-TEQ/kg・d
厚生省が研究班を設置。
厚生省 TDI 10pg-TEQ/kg・d(TDI 1996)
環境庁が健康リスク評価指針値を5pg-TEQ/kg・d。
WHOヨーロッパ地域事務局及びIPCSがTDIの見直し
WHOで1〜4pg-TEQ/kg・dの勧告
中央環境審議会らがTDIを 4pg-TEQ/kg・d(TDI 1999)