ガープの世界

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ガープの世界
   《1982 米》   The World According to Garp

平成

12年7月12日 ビデオ
監督:ジョージ・ロイ・ヒル 原作:ジョン・アーヴィング

 

 

あらすじ

  現代アメリカ文学の巨匠、ジョン・アービングの『ガープの世界』が原作である。主人公は作家のガープである。彼の生まれてから死ぬまでの波乱に満ちた一生を描き、家族の愛、生きることの意味を考えさせる感動の名作である。

 ガープ(ロヴィン・ウィリアムス)の母、ジェニー・フィールズ(グレン・クローズ)は、裕福な家に生まれたが、自分の信念を貫くために看護婦になった。彼女は男の欲望を嫌っていたが、子供は欲しかった。そこで、戦争で瀕死の重傷を負い、意識がなく死ぬ寸前であるが勃起だけはする、ガープ軍曹に目を付けた。そして、当直の夜彼にまたがり妊娠をした。この子がT・Sガープである。

 ジェニーは、子供の教育のことを考え、ステアリング学院に看護婦として雇われた。寄宿舎生活をするガープは、隣のクッシーとの淡い思い出や、屋根から落ちて間一髪の所を母に助けられるなどの出来事を体験しながら成長し、ステラリング学院に入学した。

 学院でレスリング部に所属したガープは、そこでコーチの娘である、ヘレン(メアリー・ベス・ハート)と知り合い恋に落ちる。いつも読書をしている彼女に、将来結婚するなら、どんな職業の人が良いと聞くと、彼女は作家だと答える。これが、ガープが作家になった経緯である。

 卒業後、母と共にニューヨークへ作家になるために旅立った。時が過ぎ、ジェニーが『性の容疑者』を出版する。これは、彼女の、男に縛られない独立した女の半生記であった。これが、時代の風に乗り、ベストセラーになると共に、彼女を女性運動家のリーダーにしてしまった。また、ガープも作家としてデビューし、売れないけど玄人受けする作家との評価を受ける。

 ジェニーはベストセラーのお金を使い、自分の家を社会的に弱い女性の安息所にした。そこには、いろいろの種類の女性が集まり、ジェニーを母親と慕って、家族として暮らしていた。その中に、エレン・ジェームス党員がいた。彼女たちは、エレン・ジェームスが11歳の時、レイプされ、その男達から舌を切られたことに抗議し、自分達の舌を自ら切っていた。この異様な集団をガープは毛嫌いしていた。

 また、そこには、元アメリカンフットボール選手のロバータ(ジョン・リスゴー)がいた。彼女は性転換手術をし、女性になった。彼女の優しさがガープ家の人々を魅了し、家族の一員として暮らしていく。

 ガープはヘレンと結婚し、長男のダンカンと次男のウォルトに囲まれた、幸せな生活を送っていた。夫婦の波風といえばガープがベビーシッターと浮気した程度であった。しかし、何のいたづらかヘレンに魔が差し、教え子であるミルトンと不倫の関係になってしまった。そのことをミルトンの恋人から知らされたガープは、我を忘れ子供達を連れて家を出た。電話でヘレンにミルトンと別れることを命じた後、子供達と共に映画館に行った。ヘレンは深く反省し、ガープとの生活を取り戻すために、ミルトンに電話した。しかし、ミルトンは直接話をするために、車で彼女の家に来る。家に入ろうとする彼を押し止め、車に乗り必死に別れ話をする彼女であった。しかし、ミルトンはなかなか承知しなかったが、最後にフェラチオをして欲しいといった。ヘレンはこれが最後であるとの約束をし、渋々これを行った。

 その頃、映画館から家に電話したガープは、彼女が出ないのはミルトンに会いに行っているのだと考えた。彼は、あわてて子供達と共に映画館を出て家路を急いだ。

 外は大雨で視界は極端に悪く、ガープの車はミルトンの車に追突してしまった。これによって、次男のウォルトが死に、長男のダンカンは片目を失ってしまった。ガープ、ヘレン共に大けがをしたが、ミルトンはペニスの4分の3をヘレンに噛み切られてしまった。

 この悲劇の後、傷を癒すために母の家で暮らしていた。口にけがをし、しゃべれないガープは悲しみをヘレンにぶつけ、お互いに相手の傷に塩をすりつけるような生活をしていた。それに対し、ジェニーは相手を許すことの大切さを説いた。これに心開いたガープは真に愛している者を再確認し、ヘレンと仲直りし、以前以上の愛を確かめ合った。

 ニューハンプシャー州知事選で、女性候補の応援のため演説に立った彼女を、一発の銃弾が襲い、彼女は暗殺された。彼女の死に女性運動家達は大きなショックと悲しみを感じ、彼女の追悼式を行うことになった。しかし、この式には女性しか出席出来なかった。これを聞いたガープは、自分はジェニーの息子であり、知る権利があるとし、ロバータに相談した。ロバータからは、ガープがエレン・ジェームス党員から命をねらわれていて、危険であることを理由に辞めるように強く説得したがガープは聞き入れなかった。そこで女装装をして二人で参加した。会場でプーに正体を暴かれ、危うい所をエレン・ジェームスに助けられる。彼女とは短い出会いであったが、彼女がガープのことに感謝していることが伝わってきた。

 レスリング部のコーチをヘレンの父から引き受け、作家、家事、レスリングの平凡であるが満ち足りた日々が続いていた。そんなある日、レスリングの練習中にエレン・ジェームス党員のプーに銃撃される。緊急にヘリコブターに乗せられ、病院に急ぐ中で、ガープはヘレンに『忘れないでくれ』といい、“

Im frying.”とつぶやき、息を引き取る。彼の穏やかで満ち足りた表情から、精一杯生きてきた悔いのない人生であったことが伺える。

 

 

詳しい筋と感想

◎ アメリカ現代文学の巨匠、ジョン・アービングの原作『ガープの世界』を映画化したものである。『ガープの世界』=アービングの世界ではないが、この二つよく似た部分がいくつかある。例えば、作家であること。レスリングの選手でコーチであること、売れない作家であったガープが3作目の『ベンセンヘーバーの世界』でベストセラー作家になり世に出たのと同じく、アービングはこの3作目になる『ガープの世界』で超有名人になった。その意味では自伝的小説といえる。

◎ 小説を映画にする場合、必ず時間が問題になる。ました、『ガープの世界』は膨大な量の小説であり、すべて忠実に描いていたら、いくら時間があっても足りない。その意味で、この映画が原作に忠実でないなどの批判は安易にすべきではないと考えている。逆に、原作をどのようにアレンジし、省略して、それでも原作の意志を正確に伝えているかに興味を感じた。その意味でこの映画は成功したと思う。ここでは、映画の『ガープの世界』について触れ、原作については小説の方に書きたい。

◎ アービングの世界、彼の作品で映画化されたすべての作品を見たが、共通しているのは、@登場人物が個性的で複雑であること。A社会的弱者にスポットライトを当てていること。B事故・不幸・事件が次々に起こる。それも予想もしない内容と予想もしない時に。しかし、その予兆ともいうべき出来事が事前に描かれている。C登場人物の前向きで積極的な人生観のために、映画を見終わった時、何とも言えない充実感を味える。

◎ 画面の最初に流れてくるビートルズの『

I AM 64』(赤ん坊を空へ投げるシーンの時流れていた)が悲しい情感をたたえている。64歳になっても愛して欲しい。人を愛し、人から愛される事に重きをおいた、ガープの人生観なのかもしれない。

◎ ガープの生きた時代(原作では作家をめざして母と共にウィーンへ旅だったのが、

1961年でガープ18歳の時である。)は60年代。ケネディの暗殺、東西の冷戦、核戦争の危機、ベトナム戦争、経済発展等、まさしく激動の時代であった。そして、60年代と言えばビートルズの時代。彼らの懐かしい歌声を聴くたびに、その時代を思い出させてくれます。その意味でもこの映画のために作られた曲と言っても良いくらい、ピッタリとはまっています。

◎ 最初に赤ちゃんを空へ投げるシーン。これが映画のテーマを暗示していると思う。空を飛ぶ=爆撃機の砲手である父親を捜す(見つける、確認する)=作家として羽ばたきたい(夢、野心)

 深夜、学校の屋根に登り、飛行機乗りのまねをし、危なく死にそうになる。さらに、最後プーの凶弾に倒れ、ヘリコブターで病院へ運ばれているとき、妻のヘレンに『

I AM FLY』という。このように、空を飛ぶことが、父親を捜すことであり、父を身近に感じることであったのだろう。

◎ 母の看護婦ジェニーは、裕福な家庭に育つが、自分の信念を通すため、両親の反対を押し切って看護婦になる。セックスを始めとする欲望に関心がない。特に男のけだもののような欲望を嫌っていた。ただ、セックスはイヤだが、自分の子供は欲しかった。

 そのため、戦争で重傷を負った、技術軍曹のガープを相手に選ぶ。その理由は、ガープがもうすぐ死ぬことがわかっていて、意識はないのに、勃起だけはしていたからであった。男に縛られたくないと思っていた彼女にとって、最も相応しい男であった。当直の夜、意識のないガープに跨って妊娠した。まるで、マリアの処女受胎のように……。

◎ ジェニーは強くて、背筋の通った人間であり、ほとんどユーモアを解さなかった。このような、まじめで堅物な母親から、ガープのような機知に富んだ人物が生まれたのは意外であるが、反面教師的な影響かもしれない。同じく、母親の禁欲とは対照的に、ガープの女性遍歴と女性への関心は相当なものである。

 原作では、母親は読書家で、それも並大抵の読書家ではない。また、ステアリング学院の講座を全て受講し、ガープの将来に備える努力家であった。彼女は、将来ベストセラー作家になるが、その下地は十分あった。この読書家や努力家であったことが、作家ガープの誕生に大きな影響を与えた。

◎ ステアリング学院に看護婦として勤め、息子と一緒に寄宿舎生活をする。彼女は、看護婦の仕事が大好きであり、看護婦の仕事に誇りを持っていた。その姿勢は、公式の場にはいつも看護婦の制服を着て現れたことからも伺える。しかし、分からず屋というわけではなく、息子がニューヨーク(原作はウィーン)で作家になりたいと言えば、自分もニューヨークへ行き作家になる。

◎ ステアリング学院時代のガープは、隣に住むクッシーと仲良しであった。おませでキュートな彼女と二人だけで密かな遊びをしている所を、妹のプーに何度も邪魔される。(最後の暗殺の布線である)また、犬のボンカーズには、耳たぶを半分食いちぎられてしまう。

◎ プーは、原作では頭が弱く、なかなかおしめの取れない少女として描かれている。

  彼女は、姉のクッシーのように男にもてたい。しかし、現実の自分は男に相手にされない。この欲望の葛藤の中に、いつしか自分の価値を認めない男を憎み、エレンジェームス党員になったのだろうと推察する。また、彼女にとって、クッシーは憧れの姉であり、その姉の死がガープに原因があると勘違いしたことが、暗殺の大きな要因となっている

◎ 隣の犬(ボンカーズ)に最初、耳をかまれる事になるが、その後、ガープが犬の耳をかみ切る事になる。(原作では、ガープの卒業式の夜であり、隣の幼なじみクッシーとの初体験が絡んでくる、興味のあるシーンである。)

◎ レスリング部に所属したガープは、コーチの娘ヘレンに恋をする。ヘレンは母親が蒸発し、父一人のため、レスリング部の練習場で読書をするのが日課でした。ガープはヘレンにどのような職業の男と結婚するつもりか聞きました。彼女は作家と結婚したいと答えます。これが、ガープが作家になるきっかけです。卒業後、ガープは母と一緒にニューヨークへ作家になるために旅発ちます。

 ジェニーは自分の半生記を記した『性の容疑者』を出版する。この男から独立した彼女の生き様が、ウーマンリブや女性解放などの、その時の社会風潮にマッチし、この本はベストセラーになり、ジェニーは女性運動のリーダーに祭り上げられた。

◎ ジェニーは本の収入を使い、弱い立場の女性を救うために、自分の家を安息所にした。そこには、いろいろな種類の、弱い女性達が出入りし、家族のように暮らしていた。その中に、エレン・ジェームス党の女性達もいた。彼女たちは、エレン・ジェームスが

11歳の時レイプされ、その男達から口封じのために舌を切られたことに抗議し、自分達の舌を自ら切っていた。彼女たちは、鉛筆で紙に字を書いて筆談していたが、ガープは彼女達が大嫌いであった。それは、彼女達の自己犠牲を、一人よがりの偽善であると考えていたからである。(このことが最後の暗殺につながる。)

◎ エレンの受けた行為に抗議するために、自分の舌を切って抗議するグループ(

10人前後)は、異様である。エレンはそれをやめて欲しいと思っている。ガープもその不条理を母親に強く抗議する。自分を大切にすることが他人を大切にすることにつながり、自分で自分を傷つける事は、他人を傷つける事と同じであると考えていたからである。

◎ そこには、もう一人魅力的な女性がいる。ロバータ(ジョン・リスゴー)である。彼女は、元アメリカンフットボールの選手で、性転換手術を受けて女性になっていた。この大柄な女性は、優しさでガープ家の人々をとりこにし、次々に襲う不幸に対して絶好の慰め役を演じた、その結果彼女はガープ家にとってなくてはならない存在になった。

◎ ジェニー・フィールズの好奇心は異常である。欲望をほとんど感じない彼女は、一般の男女がセックスの欲望についてどう感じているか知りたくて仕方がなかった。そこで、町で見かけた売春婦にインタビューをして、彼女たちの考え方を知ろうとする。

 そのお礼に、喫茶店でお金を渡そうとするが、人目の有るところでお金を渡すことは、法律に反するとして受け取ってもらえない。すると『自分の意志で、自分の体をどうしようと勝手である』と発言をする。この言葉は、ガープの出生のいきさつとも合致し彼女の性に対する考え方であるが、同時にガープ、そしてアービングのセックス観でもあると思う。

◎ ガープの女性遍歴は、映画では時間の関係で、ベビーシッターとの関係を臭わす程度で終わっているが、原作では女性関係は随分多く、それで反省したり、悩んだりはしていない。

 また、アービングの別の作品例えば,『ホテル ニューハンプシャー』などでは、セックスが至るところに出てくるが、それもすべて明るく、コミカルに描いている。最も、『レイプは、自分の意志に反しているから、絶対に認められない』との立場は一貫しているが……。

◎ 妻のヘレンは大学の教授であり、家事はガープがしていた。ガープは普段は温厚であるが、心に秘めた気性の荒さがある。特に、家族の安全を脅かすような事態に直面すると、異常な面を見せる。

 自分達の住んでいる町に、一旦停止の標識を守らない暴走トラックが来ると、彼は得意のランニングを活かして、その車を夢中になった追いかけ、子供達が遊んでいて危ないから安全運転をしてくれるように注意を呼びかける。時には、素直でない運転手には、暴力に訴えても止めさせる。このような気の荒さは、ヘレンの浮気を知って、子供とともに家出し、車を暴走させるシーンを暗示している。

◎ 結婚生活は、ガープのベビーシッターとの浮気程度で、大きな波風は立っていなかった。しかし、貞淑な妻であるヘレンの初めての浮気が大きな事件に発展する。

 大学院の学生であるミルトンという教え子の青年と浮気をする。ヘレンはガープを愛しているし、家庭を壊すつもりは毛頭ない。でも、ガープにわからなければ、少しぐらいはいいかなという安易な考え方で始まった不倫である。あの賢明なヘレンからすると信じられないが、おそらく魔が差したのだろう。しかし、根底に、セックスの行為(心を伴わない単なる行為)をそれほど重大なものと考えていない現れかもしれない。ミルトンとは、心まで奪われていないし、いつも冷静に、その行為のみを楽しんでいるのだから……。

 そのため、始から人に見つかったら、この関係をやめましょうとミルトンと約束していた。この考え方は、世間体を第一に考え、最悪でもガープや家族を確保しようという狡い考え方である。しかし、独身の男の方はそうはいかない。特に若い学生にとっては、セックスをやりたいの一心であり、そんなに簡単に割り切れるものではない。

◎ ただ、彼がなぜそこまでヘレンに執着するのかわからない。もてない男ではなかったし、それにヘレンは年を取っている。きっとヘレンには、若い女性にはない知的な魅力があったんだろう。

 結局、彼の元の恋人の訴えで、ガープにこのことがばれてしまう。ガープは怒り心頭に達し、ヘレンにミルトンとすぐに別れるように言い残し、二人の子供を連れて映画館へ行く。ヘレンはミルトンに電話し、夫に二人のことがばれたから約束道理別れて欲しいと言う。しかし、ミルトンは承知せず、ヘレンに会いに家まで来た。ミルトンの車のなかで別れるように何度も説得したが彼は承知しなかった。そして、ミルトンは最後にフェラチオをしてくれとヘレンに頼む。どうしても別れて欲しいと思ったヘレンは、これが最後であることを約束させ、彼の要求に渋々応じた。そのころ、ガープは映画館から家に電話をかけた。しかし、電話が話し中であることから、ヘレンはミルトンの元に行ったと勘違いし、あわてて子供達を連れて車で家に帰った。

◎ 外は大雨で視界は非常に悪かった。家路を急ぐガープの車は、ハンドルを取られ、家の前に止まっていた、ミルトンの車にぶつかった。これによって、次男のウォルトが死に、長男ダンカンは片目を失うことになる。また、ヘレンは衝突のショックで口に加えていたミルトンのペニスを4分の3噛み切ってしまった。

◎ 彼女の浮気に前後して、ガープは

18歳のベビーシッターと浮気をする。映画では、はっきり浮気をしているかどうかわからないが、ヘレンは気がついて、男のベビーシッターに変えたことで、それが伺える。このころが、夫婦生活の慣れに伴う危機なのだろうか?

◎ しかし、お互いに浮気をし、それがばれて、大きな事件になったが、そのことで、初めて、本当に愛しているのは誰であるかを確認できたのかもしれない。大きな犠牲の後、ガープ一家はジェニーの家にやっかいになる。お互いが許し合うのには、長い時間がかかったが、これを乗り越え、愛情を確かめ合った二人は力強かった。二人の和解には、母のジェニーとロバータの役割が大きい。

◎ 母親のジェニーは、ニューハンプシャー州の知事選の女性候補応援演説の最中に、猟銃で暗殺される。悲しみに暮れた女性運動家達は女性のみの追悼集会を計画する。そこにどうしても出席したいと思ったガープは、ロバータと共に女装してその集会に参加する。

◎ ガープは、エレン・ジェームスから手紙をもらい、彼女が本心から、エレン・ジェームス党員が、自分と同じように舌を切って抗議する事はやめて欲しい願っていることを知る。それを、ガープはエレンに代わって、彼女の本心を伝える本を出版した。そのことで、エレン・ジェームス党員から非難を受け、命をねらわれていた。

◎ 母親の追悼集会に女装して参加したガープであったが、そのことがプーによってばれて、危ないところをエレン・ジェームスに助けられる。二人の出会いは全くの初めてであり、ほんのわずかであったが、心と心が通じ合い、真に理解し合えた瞬間であった。

◎ その後、ガープはレスリング部のコーチをヘレンの父親から受け継ぎ、作家、家事、レスリングをして暮らしていた。そんなある日、レスリングの練習中にエレン・ジェームス党員のプーに銃殺される。享年

33歳であった。プーはステアリング学院時代、隣に住んでいたクッシーの妹であり、頭が少しおかしかった。

◎ 自分の一番好きな場所、安全であると思っていた、レスリング場で銃撃され、重傷を負った彼は、ヘリコプターで病院に運ばれる。死期を感じた彼は、穏やかで満ち足りた表情をし、“

Im frying.”とつぶやく。ここに波乱に満ちたガープの人生が幕を閉じた。

◎ 冒頭で、原作と映画が全く同じである必要はないと書いたのに、その違いをここで指摘するのは、おかしいが参考にはなると思うので、気の付いた範囲で記す。@ガープが屋根から滑り落ち、危うく母親のジェーンに助けられる場面がある。その時ガープが屋根に登っていた理由は、飛行機乗りのまねをしていたことになっているが、原作では、鳩を捕まえるためである。Aステアリング学園の院長が出てくるが、原作では院長ではなくボジャー補導部長である。B同じくレスリング部に入るのは本人の希望のように描かれているが、原作では、母親が決めている。C作家になるために母とニューヨークへ行くことになるが、原作ではウィーンへ行く。D最初の短編の中に『魔法の手袋』(魔法の手袋をはめると、人の喜びや悲しみが全てわかってしまう男がいた。しかし、彼は喜びや悲しみを一切感じたことがなかった。人生に絶望した彼は、その手袋を捨て自殺した。窓から落ちていく間に、その男は初めて人生の喜びを感じることができた。)があるが、原作にはない。Eジェニーが暗殺されたとき、ガープはジェニーの家でその予兆を感じているシーンがあるが、原作ではガープ一家はウィーンにいた。Fガープは売れない作家として描かれているが、原作では、3本目の『ベンセンヘイバーの世界』でベストセラー作家になる。G母親の追悼集会で危ない所をエレン・ジェームスに助けられるが、原作では、助けてくれたのは看護婦であった。エレンとはそこで会い、飛行機の中にまで追いかけて来た彼女とガープは意気投合し、その後、彼女はガープ家の一員として暮らす。Hガープはレスリング場で練習中にプーに銃殺され、ヘリコブターに乗せられて病院に行くが、原作では即死である。I犯人のプーはガープの幼友達であること、エレンジェームス党員であることは描かれているが、原作では、彼女の姉のクッシーの死がガープのせいであると勘違いしている。それが、暗殺の大きな要因となっている。

 

 

この映画のテーマを考える

◎ 小説『ガープの世界』は、ガープの次の言葉で終わっている。『我々はすべて死に至る患者です。』生あるものが、いつか死ぬのは動かせない事実である。だからこそ、死ぬまでの間、精一杯、生を満喫するしなければならない。自分の気持ちに正直に、賢明に生き抜くこと。これをこの映画は伝えたかったと思う。ガープは

33歳で暗殺されて死ぬけど、最後の安らかで満ち足りた表情から、充実した悔いのない人生であったことが伺える。

◎ この映画は、ガープが生まれてから死ぬまでの一生を描いているが、まさに波瀾万丈の世界、事故や事件、不幸やつらいことの連続であったが、ガープは家族の愛に守られながら、それらの苦難を乗り越え、積極的に生きて行った。

◎ ガープ一家の不幸な出来事。夫の浮気、妻の不倫と交通事故、それによって、次男のウォルトが死に、長男ダンカンが片目を失明する。特に、子供のことは夫婦の問題が原因だっただけに、一層辛かっただろう。そして、母親の暗殺、ガープの暗殺と、およそ人の一生でこれほどの不幸はそうはない。

 しかし、人の人生は端から見ると、平凡で何事もなく済んでいると見えても、その人にしかわからない、多くの難しい問題がある。作者は、それに負けずに、前向きに、建設的に生きる姿こそ人生である。と言いたかったのだろう。

◎ これと対極にあるのがエレン・ジェームス党員である。彼女たちは、エレンと同じ状況に自分を置くことで、自分も同じ犠牲者であるとし、レイプを放置する男社会に強く抗議をしようとした。自己を犠牲にしてまで、社会に抗議するのは、一見美しい行為のように錯覚するが、冷静に考えてみると、異常な行為である。まず、自分で自分の舌を切ることでこのレイプの問題は解決するだろうか?おそらく何の変化も社会に与えないだろう。それに、自分で自分の体を傷つけることは、他人が傷つけるのと同じように罪である。

◎ レイプされたエレン・ジェームスはエレン・ジェームス党員とは距離を置いている。彼女は、党員の気持ちは分かるとしながらも、抗議の仕方(舌を切ること)に賛成していない。

 それを考えると、党員は、女性問題を優位に展開させようとする、政治的な目的を持った集団か、単に自分を傷つけ社会的な同情を集めたい、ナルシストの集団である。彼女たちは、偽善者であり、人生を前向きに生きていない、そうガープは感じ、彼女たちを毛嫌いした。

 

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