グッドラックららばい

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グッドラックららばい 平 安寿子H22.11.2 完読

 面白い小説でお薦めです。
特に鷹子の生き方、考え方、行動に興味があり、共鳴するものもある。

 「片岡家」
夫信也、妻鷹子 長女積子 次女立子

<信也>
 信也は商業高校を卒業後、地元の信用金庫に勤めている。
課長どまりで、人は文鎮と彼のことを呼ぶ。
実直で手堅く、無駄なことが嫌いである。
そのため電気代の節約とか、家事に細かい。
積立預金が趣味で、娘の名前を積子と立子にした(*^_^*)。
ものに動じない、おおらかな性格である。
鷹子はそこが好きで、人には分からないが
夫は大物であると思っている。

<鷹子>
 長女積子が高校を卒業した日に家出をする。
ただこの家出は夫が嫌になったとか、
家庭が嫌で仕方がないとかではなく、
ちょっと外の風に当たってくるという感じのものであった。
自分の人生がこのまま過ぎて行ってしまうことが残念で、
今の内に何かしておきたいと思ったからである。

 旅芸人の一座<月城座>にひょんな事から入り、
そこで座長の子供達の子守り兼役者となる。
人付き合いがうまく、世渡り上手である。
考え方が自由で、既成概念に囚われない。
求められ自分も気に入った相手ならば、
寝ることもそれほど重大なことだとは思っていない。
家出してからも、その前にも浮気は何度かあるが、罪悪感は全くない。
セックスを始め、自分の欲望に自然に立ち向かう。
しかし、そうかと言って、それに流されて自堕落になることはない。
人に頼られるとその気になってしまう。

 夫のおおらかさが好きで、いつでも<帰る家>があると思っている。
いつでも帰れると思っているので、今は帰らなくても良い。
もう少し、もう少しと思って気づくと家を空けて20年となる(^_^;)。
月城一座の後は、田舎の旅館で女将をやり、その後は左官屋へと転々とする。

<積子>
 結婚しない女で、セックスが大好きである。
会社を変わるごとに男ができ、すぐにその男とセックスの関係になる。
結婚に執着をしないので、その男に飽きると、仕事を変え別の男へいく。
好きな男のタイプは、ダメ男であり、男に貢ぐことが好きである。
ただ、貢ぐと言っても、自分の許容範囲内のお金しか男に融通をしないので、
それが理由で逃げる男もいるが、それはそれと割り切り、
逃げる男を追いかけることはしない。
自分のこと以外は全く関心がなく、母がいなくなっても
帰ってきてもほとんど感情を表さない。

<立子>
 感情の起伏が激しく、喜怒哀楽がはっきりとでる。
お金に執着し、お金持ちになりたいとの願望が
彼女を前に進める原動力である。
父の反対を押し切って、
有名私立の高校、大学へと進んだのも、そのためである。

 年収3千万のゲームクリエーターと結婚し、
お金は好きなだけ使える生活を得るが、
なぜか満足をしない。
それは自分が求めていたセレブな生活は、人の金ではなく、
自分で儲けたお金、それを得るためのワクワクドキドキ感であることがわかる。
そのため、起業講座に通い会社を興すが、
信頼していたパートナーの岡本に騙される。

 ただ騙されてお金を取られるだけでなく、
彼とのセックスを含めて夫にばれてしまう。
それに怒った夫から離婚される。
娘も取られ、慰謝料もない一文無しの状態になるが、
気持ちは落ち込んでいなかった。
それは、起業に対する熱き夢があったからである。

 そして、良き参謀に巡り会い、今までの自分を反省し、
謝ることを覚え、一回り人間を大きくした立子は、
会社を興し社長となる。
その資金、人材も含めて家族の全面的な協力があったからで、
これがこの家族の絆を取り戻すきっかけとなる。

<あらすじ>
 長女積子の卒業式の日に母鷹子は、
信用金庫に勤める夫信也に電話して
「今からしばらく家出をしますから、後はよろしく」と言い残して、
突然家出をする。
このことに家族は呆然とするが、
いつしかそれを各自受け止め、その内帰ってくると思いながら
日々の生活を送っていく。

 信也は妹の佐代子の紹介する寺田の手伝いをして
シルバーサークルのサクラとして結構楽しくやっていく。
積子は高校卒業後、飲食店に就職し、そこでもさっそく男を作る。
その後仕事が変わるたびに男を変えていくを繰り返す。
結婚をしない女である。
立子はセレブ指向で、大学の時のコンパニオンのバイトで、
知り合ったゲームクリエーターと結婚し、
セレブになりたいという夢を叶える。
その時鷹子は月城一座に加わり旅芸人として自分を楽しんでいた。

 この小説の終わり方が興味深い。
竜巻に見舞われて家が半壊した片岡家、
それをテレビニュースで見た鷹子が20年ぶりに帰ってくる。

 その鷹子に相談したいことがあって節子がこの家を訪ねてくる。
節子にとって自分が生まれ育った町の外に出るのは
初めての経験で、そのことだけでワクワクしていた。
そこで詐欺師の岡本に会い、生きる意味、生きる楽しみを知るという、
意味深な終わり方である。
それは退屈な人生ではなく、
たとえだまされても活気のある人生の方がそれよりましであると
言っているような気もする(*^_^*)?

 この作品は、2005年「本の雑誌」による
文庫部門の第一位となった小説であるが、
読んで見てその選ばれた意味がよく分かった。
登場人物はユニークで話の内容が面白い、
展開も早く、先が読めないのが良い。
片岡家4人の家族がそれぞれ個性的で、
形に囚われない考え方をし、たくましく生きている。
母鷹子の言葉「家族は離れていても大丈夫、
いざという時になればまとまる。」
これがこの家族を物語っている。

 人間というのは強いもので、どんな環境であっても
しっかりとした意志を持っていれば生きていける。
というよりもその強い意志が、その人を成長させていく。
人は誰でも自由に生きたいと、
夢を実現させたいと思うもので、その極端な現れが立子の生き方である。
決して褒められた生き方ではないが、
そういう考え方の人もいることも事実である。

 立子はわがままで自分勝手、人間性なしの悪女のようであるが、
その反面、自分の目標に向かっての努力や向上心は凄く、
それをどんなことがあっても諦めずやり遂げる強さがある。
立子は人に使われるのではなく、使うタイプである。
 
 お金こそすべてと思っている立子にとって、
平凡な家に生まれ、おまけに母は家出をするという逆境は耐え難いものであった。
それでも立子は自分が上流社会に行くにはどうしたらよいかを必死で考え、
そのための努力をしていく。

 金持ちと結婚でき、ブランドものを手に入り、
好きなだけ買い物ができるようになりたいという夢を果たすが、
何か物足りないものを感じる。
それは人のお金で得たもので、自分が稼いだお金ではないからと気づき、
会社を興し、お金を作る出すことに喜びを見いだす。

 母鷹子の生き方も凄い(*^_^*)。
信頼できる家族は離れていても大丈夫、
いざという時に駆けつければ良いとの考え方である。
このままで終わる人生は虚しいと、
自分が今まで主婦であったためできなかったことを
家出して思いっきりやる。
そうすると「思い立ったが吉日」と、長女の卒業式の日に、
一度素人にしては芝居がうまいと褒められたことがある、
旅芸人の一座「月城座」に加わる。
 

  

 

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