大川わたり

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大川わたり h22.11.25完読

 タイトルの「大川わたり」の意味は次のようである。
 大川(隅田川)を挟んで、江戸は東と西では町の雰囲気がまるで違う。
 東側は主人公である大工の銀治が住んでいた門前仲町や、
猪之介の賭場のある木場のように、庶民の町であった。
 それに対して西側は、江戸城があったことから、
武家屋敷とか商家の大店があった。
銀治が手代となった千代屋があった日本橋や、
堀正之介の道場があった神田のように、上流階級の住む町であった。

 腕の良い大工の銀治は、身寄りもない一人ものであり、
その寂しさを紛らすこともあって、
猪之介の賭場に出入りをし、そこで20両もの借金をする。
(その当時の腕の良い大工の月の稼ぎが約2両であった。
そこから類推すると、今の金なら400万〜500万くらいに当たると思う)

 銀治はその借金を、心機一転心やり直すことで返したいと、
猪之介に少しの間の猶予を願い出る。
それに対して猪之介は
大川を渡る時は借金の全額を返す時だけ、
それ以外で大川を渡れば、殺すという条件で許す。
これは単なる脅しではなく、
猪之介は必ずそうすることを銀治は肝に命じていた。

 住み慣れた町を離れ、猪之介によって大川の西側へ追放される形になったが、
この<大川わたり>の禁止が、大きな障害となって、
銀治の前に立ちはだかっていく。

 本来なら賭場の借金の猶予を許すことはないのに、
なぜ猪之介は銀治にだけは許したのか?
それは、たまたま見せた銀治の猫に対するやさしい心遣いから、
銀治の人となりを知り、好意をもっていたからである。
 
 猪之介がまだ若い頃仕切っていた賭場の代貸に銀治郎がいた。
彼は猪之介のためならどんなことでもすると公言するほど、
二人の信頼関係、絆は深いものであった。

 ある日猪之介の賭場が類焼によって火事になった。
二人は命からがら逃げたが、
家には猪之介が可愛がっていた猫が残っていた。
それを助けるために、銀治郎は燃えさかる家に入り、
焼け死ぬということがあった。
銀治は銀治郎とよく似た名前でもあり、
その人格が重なる所を感じていた猪之介は、
いつしか銀治に好意以上のものを持つようになっていた。

 銀治は自分の賭場での借金のために、
賭場から仲間を誘うように言われ、
しかたなしに、鏝屋を賭場に引き入れた。
その結果、賭場の借金のため、鏝屋一家が夜逃げをすることになった。
それを深く後悔し、辛い思いをしていた。
このことを深く心に刻み、改心して一生懸命働くことが、
鏝屋への償いになると信じ、悲壮な決意で大川を渡る。

 大川の西に来た銀治は、大工として懸命に働いた。
それと同時に、今後の自分のために何事にも動じない度胸をつけたいと考え、
剣術道場の門を叩き、そこで堀正之介と出会う。
正之介は剣術の達人であるばかりでなく、
すべてに渡って傑出した人物であった。

 入門を許されるが、その条件は職人言葉をやめ、
お店(おたな)言葉を使うことと、毎日200回の素振りをすることであった。
それには、銀治の将来のための大きな意味が隠されていた。

 1年が過ぎ、銀治の成長を確かめた正之介は、
大工をやめ、千代屋(大店の呉服店)の手代になることを勧める。
それは銀治の才能を見越してのことであった。
もちろん借金を返すには、今のままの大工の方が有利であったが、
尊敬する正之介の勧めでもあり、
そこにはきっと深い意味があると考えた銀治は、それを承知する。

 千代屋の住込みの手代になってからは、
誰よりも早く起き、女中の仕事や小僧の仕事を手伝った。
そして誰にでも分け隔てなく、優しく接したので、
銀治は皆から好かれた。

 母親の代からの住込み女中である、おやすとそこで出会い
いつしか恋仲になる。
それを見て、おやすに岡惚れしていた手代の与ノ助は銀治を恨む。
さらに番頭から自分の二つの得意先を、銀治に譲らさせられた恨みも重なる。
この恨みのために与ノ助は、銀治をはめて窮地に立たせようと考える。

 銀治は黒崎屋の婚礼の支度を与ノ助から引き継いだ。
しかし、与ノ助は根岸屋とつるんで、銀治の不手際から
このままでは絶対に婚礼の支度が間に合わない状況に追い込む。
そして、その打開策として根岸屋は、
千代屋の主人から相場より10両も高い手間賃をせしめる。
与ノ助はその金を当てにして、根岸屋から誘われて賭場に行く。
そこで猪之介の代貸である新三郎によって、
うまいように転がされて、賭場に借金を作り、新三郎から脅される。

 踊りの師匠である藤原柳花は、今は銀治に譲ったが、
与ノ助の得意先であり、二人は男と女の深い仲であった、
その柳花を紹介しないと、このことを店に知らせると新三郎に言われ、
しぶしぶ紹介する。
すると、あっという間に寝取られてしまい、
新三郎は遊び人の手練手管を使って、
柳花を自分なしではいられない女に仕立てあげていく。
そして、柳花を使って千代屋から金を脅し取る計画を立てる。

 猪之介の銀治に対するやり方が気に入らない新三郎は、
猪之介から弐吉へと鞍替えをしようとたくらんでいた。
そこで、この話を弐吉に話すと、弐吉はこの話の上前をはね、
新三郎に千両を脅しとる計画を授ける。

 その計画とは、柳花の所に踊りを習いに来ている大店の娘達と
一緒に芝居見物をするためと偽って、着物を20着千代屋に注文する。
その着物の試着の時に、毒針を柳花が射して倒れる。
(新三郎からは、その毒は3日もすれば治ると、
言い含められていたが、それは嘘であった。)
この不始末をネタに千代屋から千両を脅すというものであった。
 柳花の担当は銀治であり、
新三郎にとっては憎き銀治を陥れることもでき、
一石二鳥であった。

 計画が実行され柳花は死ぬ。
この失態の責任を取って銀治は千代屋から暇を出される。
 この計画は猪之介の書いた絵だと確信した銀治は
猪之介の所に乗り込み、差し違えるつもりでいた。

 その前に恩になった正之介に、
暇を出されたことの報告をするために神田の道場に行く。
そこで話を聞いた正之介は、
千代屋が銀治に暇を出したのには何かわけがあるはずだと話す。
そして、一緒に猪之介を訪ね、事の真相を聞き出そうとする。

 猪之介の賭場に行った二人、
猪之介は正之介を、正之介は猪之介を見て、
瞬時に誠のある人物と見極め互いに信頼をする。
話をする中でこの件は猪之介には全く関わりがなく、
新三郎が弐吉と組んで勝手にやったことだとわかる。
そこで子分の仙吉を加えた4人は、
ゆすりが行われる料亭の<折り鶴>にでかけ、
隣の隠し部屋に潜む。

 そうとは知らずに、新三郎と弐吉は千代屋から千両を脅し取ろうとするが、
逆に千代屋から麻薬の取引を一緒にやらないかと持ちかけられる。
麻薬の取引はすでに、さる大名の重役と取りかかっていて、
大きな儲けになってる。それに加わらないかとの申し出であった。
こちらの儲けは千両どころではなく、遙かに儲けが多いと踏んだ、
利に賢い弐吉はそれを承知する。

 そこへ正之介が現れ、一気に千代屋を切る。
その気合いに驚く弐吉と新三郎。
このことが表沙汰になれば大名の取りつぶしもある程の大事であり、
それに関わった町人がどのような裁きになるかわからない。
もしお前らが今すぐ江戸から逃げるなら見逃してやると、
正之介から言われた弐吉らは一目散に逃げる。

 実はこれは千代屋と正之介があらかじめ仕組んだ大芝居で、
千代屋は生きていた。
その後、銀治はおやすと結婚し一件落着となる。 
 

  

 

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