梟の城

 読書の目次へ 

 


梟の城

 司馬遼太郎

 私は太閤記を始め、徳川家康や織田信長などの戦国時代ものが好きです。その系統の本は若い頃夢中になって読んでいました。でも、ここしばらく現代小説ばかり読んで遠ざかっていました。久しぶりに歴史(時代)小説を読んでみて、その楽しさに、昔感じたワクワク感が蘇ってきました(笑)。

 葛籠重蔵の魅力は<忍者としての使命を徹底して守る非人間的で酷薄な反面、小萩を心より愛する人間的な面をもっている。>

 惚れる男は、仕事ができることが絶対条件、でも、そればかりではダメで、女性を愛する心のゆとりももっている。それは、坂本竜馬と共通点があるような気がします。

 今回<

梟の城>を読んでから、再度ビデオでも見てみました。以前映画館で見た時との印象の違いを確かめたかったからです。原作を読んでからだと違った印象を受けるかな?とそれは、最初映画館で見た時はほとんど印象に残っていなかったからです。中井貴一が主演だったことぐらい(笑)。

 今回再度見てみましたが、原作の方がはるかに良い、それが結論です。内容も少しずつ変えていました。小萩が服部半蔵の手下だったり、阿片をすっていたり、木さるが旅芸人だったりと。でも、イマイチでした。ただ、原作を読んだから、いろいろ映画で工夫をしていることや、違いを見ることができました。

 「

梟の城」は2〜3年前に中井貴一の主演で映画化されたので、見た方もあるかもしれません。 おおざっぱな筋は次のようです。 時は豊臣秀吉の晩年(後少しで死ぬ)、朝鮮への出兵や淀君に世継ぎの秀頼が生まれた頃の話です。 どんな政権でもそうですが、政権末期になると腐敗し、狂気じみた行いが目につき、新しい時代を求める声が広がります。特に朝鮮出兵はその極みでした。このまま秀吉が生きていたら、さらに大きな苦難がやってくる。そんな時代背景の元にこの小説は描かれています。

 主人公は伊賀の最強の忍者、葛籠重蔵です。彼は何者かによって秀吉の暗殺を依頼されます。彼を取り巻く複雑な人間関係、忍者としての使命感と甲賀忍者小萩との恋に揺れる心。果たして彼は秀吉を暗殺することできるでしょうか?そして重蔵の運命と恋の行方は……。

 忍者の世界は面白いですね。私の子供の頃は、貸本の時代でした。皆さんはイメージわきますか?駄菓子屋にハードカバーの漫画本があって、ビデオのレンタルのように安い値段で貸してくれました。小学生の私が何冊も借りて読めたのですから、安かったことは確かです。そんな漫画本の中心が時代劇、特に剣豪伝や忍者ものが多かった。それを夢中になって読んでいた記憶が蘇ってきました。

 私的には伊賀の方が良いイメージです。明るく正義の味方、でも甲賀は暗くて悪役。こんなイメージは私だけ?忍者と言えば服部半蔵の名前がすぐ浮かびます。彼は伊賀の忍者、だから彼が影響を与えているのかな?

 この小説の中では具体的に忍者がどのような鍛錬をしているかは出ていませんでした。ただ、毎日の厳しい鍛錬の結果、常人では想像もできない能力を身につけた。それが普通の人には忍術と見えたのでしょう。きっと、今のオリンピック選手のような厳しい訓練を毎日うけていたのでしょう。

 伊賀の単独行動、甲賀の集団行動。これも私の中に伊賀の格好良さを植え付けた要因の一つかもしれません。一匹狼は格好良いですからね。ヒーローも出やすいし。

 それから、上忍と下忍の身分制度にもびっくりしました。名前は聞いたことがありましたが……。武士の世界の日陰者、だから、武士社会の身分制度は否定しているのかと思っていました。黒阿弥という魅力的な下忍が出てきますが、彼の葛籠重蔵に対する仕え方は奴隷のようです。一般の社会よりも厳しい身分制度があった。これが意外でした。

 <伊賀の乱>は壮絶なものです。信長は描き方によってものすごく変わります。非道、人間味のない徹底さは忍者以上です。病的な異常さえ感じます。その信長への恨みと復讐が、重蔵の生きる意味でした。

 

 <人を許せるか?>

私は全ては時間が解決してくれると安易なことを考えていますが、時間がたっても許せないものがあるかもしれません。それは個人差であると同時に、ことの大きさの差であります。今回のJR事故や、伊賀の乱で家族を殺された重蔵などがその例です。

 でも、彼は秀吉を許しました。これは何なんでしょうか?私は小萩の愛の力だと思うのですが、どう思わりますか?権力者といっても、ただの老いぼれた人間とわかり、自分が立ち向かってきた大きな壁が急にむなしくなった。そして、小萩と一緒に生きよう、生きたいと心から思えるようになった。

 <今井宗久>が信長に有名な茶器を献上します。まだ天下人と決まっていない若輩の信長に賭けたわけです。<先行投資><損をして得を取れ>は現代にも当てはまること。この商才に長けた彼の生き方が実に面白かったです。

 二人の女性が出てきます。<小萩>と<木さる>です。小萩は、重蔵を愛することから、女として生きたいと強く願います。忍者としての使命やしがらみを全て捨てて、一人の好きな人に命がけで惚れます。この命がけの愛が人間的な部分をもつ重蔵を、人間として蘇らせます。現実よりも夢や理想に生きたわけです。

 

 それに対して<木さる>は、何度も裏切られながら五平とよりを戻します。重蔵を愛しながらも、何も保証がない状態で待つことができません。現実的に考え、お金の力で豊かな暮らしを手に入れ、忍者から足を洗いたいと思っています。この弱さを五平につかれます。というより、五平と同じ考え方で、現実的妥協的だったわけです。

  

 

上に戻る