星々の船:

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星々の船(村上由香)

 <星々の船>(村上由香)を読み終えました。この本は、平成15年度上半期の直木賞受賞作です。この本の帯には<戦前生まれの厳格な父、家政婦から後妻に入った母、先妻の子も後妻の連れ子も、兄弟は分け隔てなく育てられた。そんな一家に突然、残酷な破綻が訪れて……。家族とは、そして人生とはなにか。性別、世代、価値観の違う人間同士が、夜空の星々のようにそれぞれ瞬き、輝きながら、それでも「家」というひとつの船に乗って、時の海を渡っていく。><禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末っ子、居場所を探す団塊の世代に長兄、そして父は戦争の傷痕を抱いて……>とあります。いつも感じることですが、これは誰が考えるのでしょうか?短い言葉で小説の核心をついています。これだけ読んでも、本を読んだ気になります。

 

 家庭の中で起こった出来事を家族一人一人の立場で描いて行く。視点を変えることで同じ出来事がこうも変わって見えるかと愕然とさせられた。また章ごとに家族の一人一人にスポットをあてる手法が新鮮で興味深かった。ストーリーのメインは、水島暁と沙恵の兄妹による禁断の恋である。父親の重之は妻の晴代が病床につくと、住み込み家政婦として志津子を家に入れる。その後、妻の他界と共に、しばらくして後妻に収まった。志津子には、沙恵という連れ子がいたが、実は重之の子供であった。そんなこととは知らずに暁と沙恵は仲の良い兄妹として育ち、いつしかお互いを特別な人として意識するような仲となった。これに気づいた両親から、2人は血のつながった兄妹であると告白をされる。暁はそのショックで家を飛び出し、音信不通になる。このことから水島家には幾つかの不幸が生まれる。

 

 この作品から感じたことは、本当に好きな人を好きと言えない、又は添うことができないことの辛さです。今の世の中男女の色恋には寛大になったとは言え、血のつながった兄妹の恋は許されていません。結局暁は離婚をし、沙恵も幼友達の許嫁を振ることになります。どこまで行っても添い遂げられないとわかっているけど、それでも心の中では互いを必要としている。お互いを思いやり、分をわきまえているだけに、この恋はせつなさもひとしおです。

 

 次女美希は不倫、長男の貢は浮気、父の重之は戦争中の従軍慰安婦との悲恋。この作品ではいろんなパターンの愛を見せてくれたけど、どれも辛くて悲しいものです。でも、それでも日常生活(家族としての生活)は淡々とやり、何とか生きていく。人間って本当に力強くてたくましいものです。

 

 重之の戦争体験は鮮烈です。重之を初め、多くの日本人が「人を殺したくない」と思っていた、でもそれを声にすることができず、間接的に戦争に協力したことになる。このことが重之には心の負担になっている。あの時代に「戦争反対」を叫ぶことはどんなに困難であったか?それを重之は十分知っていた。しかし、それでも時代に流され、自分のおかした罪に苦しんでいた。

 

 あの時代を知らない若者が<どうして戦争反対>と声を上げなかったと、その当時の日本人の戦争責任を問うけど、その状況になったら、彼らに、戦争反対の行動がとれるか?一人一人の小さな声の集合が大きな力の源泉であるけど、最初にその小さな声を上げる勇気があるのか?

 

 この家族の人との接し方の根にあるのは、<人を深く愛すれば、それにのめり込み過ぎ、それを失った時には耐えられない。それなら、自分が傷つかないように、あらかじめ一歩距離を置いて、のめり込まないようにしよう>である。

  

 

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