カラマーゾフの妹 高野史緒著
平成24年8月30日読了
書店で偶然この本を見つけた時の喜びは衝撃的でした(*^_^*)。
まさに、「お前のために書いたような本だから読め」と
存在を誇示しているようでした(*^_^*)。
「カラマーゾフの兄弟」とは、
ロシアの文豪ドストエフスキーが書いた、長編小説です。
宗教、政治、哲学、家族、友情、そして父親殺しと
幅広いテーマを扱っています。
特に、その中の<大審問官>の物語は、
来るべき世界を予言したものとして有名です。
私は、哲学や宗教を扱った小説の中では、
世界最高峰のものであると思っています。
また、それが世界的な評価でもあります。
私は大学生の頃、「罪と罰」を読んで、
ロシア文学、特にドストエフスキーを信奉し
彼の本を夢中になって読みました。
それは小説だけでなく、彼に関する評論も含めてです。
あの頃は思考や行動の面で大きな影響を受け、
このままで行ったら、修道院にでも入らねば
生きていけないほどの束縛を感じました。
これから先の人生を自由に生きたいと思い
彼の思想と小説を捨てました。
あれから40年、今はその時の呪縛は完全に解けたと思います(*^_^*)。
カラマーゾフの兄弟は2部構成です。
1部は生前に書かれましたが、
2部は構想のみで、作者の死によって完成をみていません。
この小説は、2部作で完結するように構成されていましたが、
1部でも十分完結した作品であるとの評価が高く、
独立した作品と見なされています。
2部の構想は、1部から13年後の話です。
主人公はアレクセイで、彼が修道院から出て、
俗世で生きる様を描く予定でした。
2部構成であったため、
1部の中に2部のためのいろいろな付箋が引かれています。
それを使ってこの作品の作者は、
13年後をドストエフスキーに代わって描いています。
それがこの<カラマーゾフの妹>です。
父親殺しの犯人として長男のドミトリーが逮捕されます。
彼は無実を訴えますが、裁判で有罪が決まると、
なぜか彼はそれに従い、刑に服します。
そして、労役中に事故で亡くなり、
それによって、この事件は解決したかと思われましたが……。
次男のイワンはそれを認めることができませんでした。
13年後、特別捜査官となったイワンは、
「カラマーゾフ事件」の再捜査のために、
少年時代を過ごした村を訪ねることから、この物語は始まります。
題名の<カラマーゾフの妹>の妹ですが、
イワンの遠い記憶、それも深層心理の深い闇に覆われています。
でも確かに妹がいた記憶があります。
その村で、フィヨードル、マリファ夫婦と
イワン、アレクセイの4人が暮らしていて、
そこには、障害をもって生まれた妹がいました。
そのあまりの可愛さに、イワンは命をかけて守ると
アレクセイと共に誓います。
でも、ある日イワンだけがいる所で妹は息を引き取ります。
その妹の死が、あたかも自分に責任があると感じ、
その罪の意識から、妹の存在を封印してしまいます。
その罪悪感が、イワンの人格形成の原点となり、
多重人格者にし、その中に悪魔や大審問官が住んでいました。
ドストエフスキーの原作では、
スメルジャコフの告白として、
<自分はイワンの意をくみ、
自分が犯行を犯したとなっています。>
その後スメルジャコフは自殺をしてしまいますので、
その真相はわからないままでした。
裁判では、状況証拠からドミトリーが有罪となりました。
イワンは裁判の結果に不満だったので、
自分が特別捜査官となった13年後、
真犯人を捜すために、死者の墓を暴いて、
死因と凶器を特定することから、再捜査に挑みます。
1部から13年後の、それぞれの登場人物の
姿がなかなか的を得ています。
アレクセイは教師となり、リーザと結婚します。
犯人はアレクセイでした。
これもなるほどと納得できる結論です。
一番犯人らしくないのが犯人というのが
ミステリーの常道ですから(*^_^*)……。
また、犯行の動機が、父のフヨードルが
家族全員を殺して自分も死ぬつもりだと、
スメルジャコフに聞いたことからであるというのも、
彼らしい動機であると思いました。
結局、カラマーゾフの家族を崩壊させたのですから、
スメルジャコフは復讐を果たしたことになります。
神がなければすべてが許されるとイワンが言いました。
それに対して、神がいるからすべてが許されると
アレクセイが言います。
それは、この世界のものはすべて、
神が許したから作られたからです。
アレクセイが皇帝暗殺に関わるのは興味深いことです。
ただ、クラソートキンの電子計算機や、
ロケットまで行くとやや飛躍があると思いますが、
小説としては面白いです。
アレクセイは皇帝の暗殺という使命を果たすために、
ラキーチンやネリュードフを殺すことになります。
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