家族狩り

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天童荒太


 予想通り、引き込まれていくように本に集中してしまい、時間が経つのを忘れてしまいます。

 プロローグの人間の体を鋸で切るシーン、ショッキングです。それと、馬見原と綾女と研司の旅行シーンは、孤独の歌声のサイコの生い立ちとダブリます。

 同じく、俊介、馬見原、遊子、冒頭の殺人シーンがどのように結びつくか、読者に興味を持たせる手法は、孤独の歌声と同じです。しかし、文章や構成は格段に進歩しているので、孤独の歌声と永遠の仔の中間に位置する作品であることがよくわかります。

 やはり、期待したとおりのすばらしい作品でした。土、日を使ってほとんど読みましたが、読み進むに従って夢中になり、一気に終わりまで読んでしまいました。

 テーマが家族であり、自分としては、身近に作品を感じられました。しかし、それにしても重いテーマであり、家族の在り方の難しさを痛感し、自分の子供の育て方が正しかったのか不安になりました。 いい加減に生きることができない、まじめな子供達が真剣に悩んで、不登校や家庭内暴力に走っている姿。痛いほど感じました。

 自分は随分いいかげんな人間で、いろいろな所で妥協をして生きてきたから、彼らみたいにはならなかったけど、それは良かったことなのかどうかは、この作品を読んでわからなくなりました。自分の子供時代、そして親としての子育て、家族の在り方をしばらくの間、考えてみたいと思います。

 いい意味の空白感を感じ、その空白をこれからの思考で埋められたらいいなと考えています。

 犯人が、両親を縛り、刃物で脅しながら、子供を命をかけて愛してきたかと聞くシーンがありました。恐怖に顔を引きつらせ頷く両親に、犯人はその証拠を見せろと、刃物で体を切り刻み、その痛みに耐えさせる。今考えても背筋が凍るシーンですが、これに深い意味があることに気が付きました。不登校になったり、家庭内暴力が起きたとき、その親が、自分の命をかけて自分の子供を守ってやったかを問いかけているわけです。命をかけるほど真剣に子供のことを考え、育ててきたら、子供はこんなふうにはならないぞ、それを反省しろと言っているようです。

 

◎ 巣藤

浚介は、同じ高校で国語を教えている清岡美歩とつきあい始めて2年がたった。結婚をしつこく迫ってくる彼女とは裏腹に、彼は女房面する彼女が鬱陶しくなりかかっていた。その日も、旅行へ連れて言ってといわれたのを、学校の補導と絵を描きたいことを理由に断ったが、仕事から帰ると彼女が部屋にいた。彼女には飽きていたが、一緒にいるとつい手が出てしまう。反応のない行為が終わったとき、彼女が息苦しいと言って窓を開けた。数日前から、灯油臭い臭いがしていたが、今では、消毒液に似た生々しい臭気を感じた。それは、血をしたら生肉から発生するような臭いだった。

 

◎ 彼のアパートは2階建てで、彼の部屋は1階の角、窓の外はブロック塀で、庭付きの2階建て住宅だった。中学生が不登校で、その中学生が暴れ、そのすさまじい声が聞こえてきていた。その中学生が何かやったのかもしれないと思ったが、他人のことは干渉すべきではないと思っていたので、特に警察には通報しなかった。

 

◎ 美歩は、浚介に結婚を再度求めて、「産むから」という言葉を残して、アパートを飛び出した。美歩を追いかけた俊介は、悲鳴を聞いたような気がした。それも、彼の部屋の前の家、麻生家からのようだった。しかし、麻生家は明かりが消え何の気配もなかった。また、声も2度と聞こえてこなかった。浚介は、錯覚だと思い、「家族なんてそんなものいらねいぞ」と吐き捨てるように言って、部屋に戻った。

 

◎ ゴールデンウィークの最中、電車で富士山を見に出かけた、わけありな親子連れがいた。男は馬見原光毅で年は50前後で身長は170そこそこでずんぐりした体格の男。女は34,5の清楚な感じの女性で、冬島綾女という。彼女はしきりに男に謝っている。貴重な時間を使わせてしまったことを。6,7歳の少年は研司といい、疲れて眠っていた。今回の旅は、彼女が息子に想い出をつくってやりたくて、馬見原に頼んで実現したものだった。帰りがけに彼女に話があると、馬見原が切り出す。彼の妻の退院の日が決まったのだった。彼は言葉には出さないが、これで最後にしようと、この旅行をしたのだった。

 

◎ 彼女の住むアパートまで、研司をおぶって帰った。帰ってから目を覚ました研司からお父さん今夜止まっていってくれるといわれたのが、うれしかった。研司をお父さんと呼ばせている自分の甘えを謝る。

 

◎ 同じ階の廊下の方から、赤ん坊の泣き叫ぶ声と、母親の声そして、子どもを殴る音がした。馬見原が我慢できず、警察だと言ってその部屋に踏み込む。泣き叫ぶ赤ん坊は全身痣だらけだった。明らかに子どもを虐待している。そうみた馬見原は、自分の子どもだったら大事にしろよという。(これは、意味深な言葉である。後でこの深い意味がわかってくる)

 

◎ 綾女が必死の思いで馬見原を連れ戻す。彼女の夫は失業中で金策に走り回っている。ストレスがたまっているという。それに対して、自分のストレスをこどもにぶつけるような奴に親の資格はない。という。綾女はその言葉を聞き、研司の本当の父親である、油井を思い出す。彼が、そろそろ刑務所から出所する頃であった。親権は裁判で決着が付いていたが、それを納得するような男ではなかった。不安そうな綾女を、馬見原は自分が守ると強く勇気づける。

 

◎ 私立の進学校で生徒には息抜きのような美術の授業だった。

  

 

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