男でも女でも、このまま終わって良いのか?という漠然とした不満があります。いや、何かあるはずだという期待を持っているものです。それを、彼女は表に出しただけです。人間が潜在的に持っているもの、不倫はいけないとはわかっていても、どこかにあこがれるようなものがある。それを描いています。
小池真理子 は、恋する女性の心理、それも中年の女性の心理描写が巧みだと思います。そして、彼女の描く女性は、恋愛感情に揺れ、翻弄されるけど、芯は強いですよね。表面的な強さを見せる男より、遙かに強い女性を描いています。「月狂ひ」という作品が私的には一番気に入っています。あとは、短編が良いですね。
藤田宜永と 小池真理子は作風が全く違いますね。小池真理子の繊細で柔らかい、流れるようなタッチに比べて、藤田はごつごつとした荒さを感じます。どこか男の頑固さ、ぎこちなさ(ちょうど高倉健のような男っぽさ)を感じさせます。ストーリーの展開も遅く、イライラさせられます。男の恋愛(恋愛慣れしていない普通の男)とはこんなもので、結構シャイなんです。
表面的に弱く見える女性の芯の強さを小池が、逆に強く見える男性の弱さを藤田がうまく描いています。藤田の作品が<緊張感がなく面白くない>と感じるのは、ストーリーの展開が遅くて、変化に富んでいないからだと思います。彼の小説を読みながら<もっと、早く進めよ>心の中で何度も叫んでいます。でも、現実の恋愛とはそんなもの、それを彼は忠実に描いているから、面白くはないんだと思います。
彼は不倫を賛美しているのではなく、彼が描きたい大人の恋愛では、バツイチでも無い限り、既婚者であるわけです。小説にはいろいろな読者がいるわけですから、大人の我々が感じる恋愛もあって良いと思います。渡辺淳一とはやや違うと思うのですが、どうでしょうか?
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