マークスの山

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マークスの山(高村薫)

h18.6.4読み終えました。

<あらすじ>

 精神分裂症の青年が引き起こす恐喝と連続殺人、その裏に隠された重大な秘密とは?何の関係もないような点を、執念の捜査で結び付け、犯人達を追い詰めていく警察組織。

 犯人のマークスは、10歳の時に両親が山で排気ガスを車に入れて無理心中した。両親は死ぬが、本人のみ奇跡的に脱出し、山の中をさまよいながら助かる。彼の精神分裂症は、母親の遺伝もさることながら、その時の一酸化炭素中毒の後遺症が脳に障害を与えたことが大きい。

 3年ごとに明るい自分と暗い自分が現れる、それは躁と鬱の繰り返し。鬱の時は全く動けず、躁の時は笑ってはしゃぎまわる。彼の心の中にはもう一人の自分がいて、彼を支配し、その命令のもとに動いていた。彼はそれをマークスと呼んだ。

 彼が唯一愛した女性は、年上の看護師である真知子。彼女は彼を理解し、彼のために尽く、彼もまた、彼女の愛にこたえるために愛した。彼は、彼女だけに明るい未来を描くことが出来た。

 彼は自分以外の者をすべて憎んだ。躁の時に偶然盗みに入った家で、重大な過去の秘密が書かれた手紙を発見する。その時は、この手紙の有効な使い道を知らなかったが、いっしょに刑務所に入っていた男から知ることになり、社会の一線で活躍する5人の男達をゆする。

 16年前に北アルプスで起こった死体遺棄事件。そこに5人の男達が関係していた。彼らはいずれも社会の第一線で活躍している人物。今の社会的な地位や信用を守るためにはどうしても隠しておきたかった秘密。

 ここからマークスと5人の男達の駆け引きが始まり、連続殺人事件が起こっていく。そのシナリオを書いているのは、5人の代表とも言える弁護士の林原である。やくざ、右翼、政治家といろいろな所に顔の利く林原の画策で事件は一層複雑になる。

 16年前に山で起こった事件と現在の連続殺人。一見、無関係に見える点を結び、線にしていく警察。本庁の合田刑事を中心に、刑事たちの生々しい姿が描かれている。刑事達は、憎み合い、いがみ合いながれも、犯人の逮捕という一つの方向に向かって捜査を進めていく。

 これが現実の警察組織であり、刑事なんだと思う。殺人事件の捜査現場は、きれい事ではすまない世界。人を出し抜いて手柄を上げ出世をしたい。そこまでは行かなくても、いい働きをして、自分のプライドを満たしたいというのが人情。そこには、テレビドラマにはない、本物の生生しい迫力がある。それにしても、作者は警察の実情を事細かに知っている。どこからその情報は得たのか?

 とにかく、操作の場面での詳細な記述は作品に重みを与える。また、人間心理の深さや細かさを的確に表現している。とても、女性の作者とは思えないものである。
  

 

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