容疑者Xの献身

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容疑者Xの献身

 

 2月23日に、東野圭吾『容疑者Xの献身』を読み終えました。この作品は本年度の直木賞受賞作です。

 東野圭吾の作品は、4〜5冊程度しか読んでいないので断定はできないのですが、彼の作品で、殺された人物以外悪人が出てこない作品は珍しいのでは?

 そういう意味で、登場人物が良い人ばかりであったことが、どうしようもない殺人事件を扱っていたのに読み終えた後、ほっと心が和む思いがしました。

 

 常識の盲点をつく、意外な展開と結末。ミステリーとしても十分に堪能できました。刑事コロンボや古畑任三郎のような、先に殺人ありき、犯人ありきの展開で、数学者が立てる論理的で緻密なアリバイやトリックで楽しませてくれました。

 

 ラストシーンでは、思わず胸がつまり涙が出ました。人の思いとか、人を愛する心の純粋さに感動しました。そして、人の真心や思いやりの気持ちは必ず通じるもの、それが確認できて良かったです。

 人はどこまで人を愛することができるのか?どこまで自己犠牲ができるか?

 愛する人のために尽くすこと。その人を守ることが自分の幸せと感じる所までは理解できます。ただ、それが決して報われないとわかっていたり、自分でも報われないことを願っているとなると今の私には理解できないことです。

 

 『愛とは代償を求めないことだ』と言われていて、その代表が母の愛です。それは無条件の愛で、血のつながりに大きく起因する気がします。だから、親と子、兄弟にはそれがあるが、他人となると……?

 夫婦、恋人……(愛情が深ければ可能かも)でも、この作品は片思いの相手で、相手の気持ちを確認さえしていない。そんな人に無償の愛をそそげるのか?そして、この作品での答は『Yes』でした。

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 山神は人生に終止符を打とうとした時に偶然、数式のような純粋な目をした女性に出会い一目惚れします。そして、その人を秘かに守っていくことを自分の生き甲斐とすることを決意します。

 そのチャンスが、意外な時に意外な形で現れます。 状況は最悪。でも、彼の心は踊ったことでしょう。これで、彼女の役にたてる。最大のピンチが最大のチャンスに変わった瞬間です。

 人が殺人を犯す動機にはいろいろあると思います。でも、一つの殺人を隠すために、もう一つの殺人を犯すこれは常識の盲点です。

 また、男女の深い関係にないものがその人のために殺人を犯してまでかばうというのも常識の盲点です。

 山神の計画は、数学者らしく、論理的で一本の筋が通ったもの。それは、数式のように美しい計画でした。あらゆる場面を想定したもので、否の打ちどころのない完璧な計画でした。

 彼は、靖子を守りきるには、最後は自分が身代わりになるしかないと知って、そのための計画を準備していました。

 彼の完璧な計画で、想定外であったのは同級生の物理学者湯川学と出会ったこと。それと、もう一つは『人の気持ちの問題』です。

 人は心に罪を持ったまま、黙って生きていけるのか?母娘が非情な人間ならばそれができたかもしれないが山神が愛するほどの人がそんなわけがありません。

 この人の気持ちを理解できなかったことが山神の犯した最大のそして唯一のミスでした。数学の中だけで生きて、人とのつながりを避けてきた山神には理解できないことでした。『人の気持ちは、論理では割り切れない感情の世界』です。

 二人は果たして結ばれるのか?ラストシーンを見ると、刑期を終えた後を期待させますね。でも、工藤も彼女を待っているのだから……。刑期を終えたあと、果たして彼女はどちらを選らぶのでしょうか?

 この作品、工藤を絡めたことで、作品に深みをまし、それによって、山神の献身が試されました。

 工藤は、靖子を愛していて結婚をしたいと思っています。彼の愛は、山神とは違うけど、真面目で誠実な愛です。

 私は彼の愛し方はすばらしいと思います。私にはあそこまで、愛する人を大事にしやさしく愛することはできません。

 途中山神は、工藤と靖子との関係に嫉妬し、下心があるように思わせたり、彼女に恩を売って、自分のことを愛してほしい思っているように見せていましたが、それも全てはラストの自首を正当化させるためのカモフラージュでした。完全にだまされました(笑)。

  

 

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