ニューシネマパラダイス(完全版) 劇場公開版と3時間の完全版がある。違いは、中年になった主人公のトトが、かつての恋人エレナとの再会のシーンがあるかどうかである。 |
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平成13年1月8日 ビデオで見る。 | 監督 ジョゼッペ・トルナトーレ |
音楽 エンニオ・モリコーネ | 1989年/伊=仏合作 |
出演、少年時代のトト(サルバトーレ・カッシオ)アルフレード(フィリップ・ノワレ)中年のトト(ジャック・ペラン) | |
89年、カンヌ映画祭審査委員特別大賞、89年、ヨーロッパ映画審査員特別賞・主演男優賞(フィリップ・ノワレ)、90年、アカデミー賞外国映画賞 |
あらすじ
戦後まもなく、シチリア(イタリア)の小さな田舎町に住む、映画好きの少年と映写技師との友情を描いた感動の名作である。トトは、母と妹の3人暮らしであった。父はロシア戦線で捕虜になり死亡した。トトは、母から牛乳を頼まれたお金を、映画に使ってしまうほどの映画好きであった。毎日映画館へ入り浸っていたが、目的は映画より、映写室の方にあった。映写技師アルフレードは、トトを愛し、自分の子供のように、可愛がったが、自分と同じような過酷な道は歩ませたくなかった。 その頃の映画館は、全盛期で連日大にぎわいであった。ある日、映画館に入りきれなかった客のために、広場の壁に映画を写すマジックを見せたが、それが禍し、目を離した隙にフィルムが燃え、火事になった。パラダイス座は全焼し、アルフレードは失明した。村の唯一の娯楽の場が無くなったと、がっかりしている所を、サッカーくじをあてた男が再建し、ニュー・シネマ・パラダイスを作った。その映写技師は、アルフレードの後見のもとにトトが勤めた。 トトは、学校に通いながら、映写技師として成長した。学生の時、転校してきた美しい女学生に一目惚れした。彼女は銀行の重役の娘で、トトとは釣合がとれなかった。それでも何とか愛を告白し、交際を重ねる内に愛を育み、お互いに大切な人となっていく。しかし、彼女の父親はそれを許さず、他の男との結婚を迫った。この危機を打開すべく、彼女はトトとの逢い引きを約束するが、行き違いがあり、二人は別れることになる。 傷心の内にローマへ旅立ったトトは、自分の夢をかなえるべく頑張り、映画監督として大成功する。そんな彼のもとに、母よりアルフレードの死の知らせが入る。葬式のために30年ぶりに、ふるさとに帰った。そこでトトが、目にしたものは、斜陽となった映画館の取り壊しと、エレナの娘であった。久しぶりにエレナと会ったトトは、彼女から衝撃の事実を聞かされる。アルフレードの形見を持ってローマへ帰ったトトは、そのフィルムを見て、自然に頬が緩んでいく。
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詳しい筋
◎ 母親は、ローマにいる息子サルヴァトーレ(トト)に何度も電話をかけ、アルフレードが死んだことを、伝えようとするがつながらない。そこで、仕方なしに同棲している女性に伝言を頼む。彼はローマで映画監督として成功し、非常に忙しかった。今まで何人もの女性と付き合っているが、心から愛する女性は現れず独身である。夜遅く、家に帰った彼は、同棲している女性から、母親の伝言を聞いた。彼は昔のことを回想する。 ◎ 戦後まもなく(1950年頃)のイタリアのシチリアにあるジャンカルド村での出来事。この村は、映画館が1つだけある、のどかな田舎町である。この映画館(パラダイス座)は、信者に娯楽を提供するために、教会が運営していた。そのため、神父が上映される前に映画を見て、事前に検閲をしていた。神父は、キスシーンや猥褻と思われる部分は、容赦なく鈴をならす。その鈴を合図にアルフレードは、フィルムに紙を挟んでいき、後でフィルムをカットするのだった。だから、映画観で上映される時には、キスシーンは全てカットされていた。映画を見ることしか娯楽がなく、それを唯一の楽しみにしている、聴衆の欲求不満は募っていった。 ◎ トトは、小学校の2年生ぐらいで、映画が大好きな、かしこい少年である。彼の母親マリアは、ロシア戦線に行き、捕虜になっている夫を待っている。下に妹が一人いる。 ◎ 母親曰く、『トトは映画とアルフレードのことしか話さない。』そのくらい、トトは、映画と映写技師のアルフレードが大好きであった。トトは、映画館に毎日入り浸っていた。時には、母から牛乳を買ってくるように頼まれたお金まで、映画に使ったことがある。その目的は、映画以上に、映写室に入り、映写機を操作することに興味を持っていた。しかし、アルフレードは、ここはお前の来る所ではないからと、映写室に来るたびに追い返していた。それは、トトにこんなつらい仕事をさせたくないという、やさしい気持ちからだった。 ◎ いくら追い返されてもトトは、映写室に来た。ある日、カットされたキスシーンのフィルムを欲しいと言うトトに、アルフレードは『フィルムはお前にやる。しかし、それは自分が預かるから、二度と来るな』と言った。それは、当時のフィルムが可燃性のもので、危険だったからである。 ◎ トトは、カットされたフィルムを、アルフレードに黙って家に持って行った。それを缶の中に少しづつためて、フィルムを眺めて楽しんでいた。ある日、そのフィルムが燃えて、危うく妹がやけどする所だった。その時は、母親が火事を見つけ消火して難を逃れた。こういうことが重なり、母親は映画を憎み、アルフレードのことを息子をたぶらかす悪人のように思っていた。 ◎ 母親からもきつく言われ、トトに映写室への出入り禁止を伝えたアルフレードであったが、そんなことであきらめるトトではなかった。そして、次第にトトの情熱が伝わり、映写室への出入りも許され、二人は大親友になる。それでも、映写技師は、トトのやるべき仕事ではないと、操作法を教えることは頑なに拒否していた。しかし、小学校卒業試験(アルフレードは小学校を卒業していなかった。その認定試験が、トトの小学校で行われ、その試験会場にトトがいた。)を受けたアルフレードが、トトにカンニングを頼んだことから、映写の操作法を教えることになった。 ◎ そのころの映画館は、庶民の唯一の娯楽であり、すごい賑わいであった。席もいっぱいで、通路にも人があふれ、立ち見の人が大勢いた。ここには、いろいろな種類の人が集まっていた。同じ映画を10回も見て、せりふをすっかり暗記してしまう男。2階席から下の階の労働者に向かって、いつも唾を吐く上流階級らしき男。(これは、そのころの政治情勢を伺わせる、共産党(労働者)と自由主義者(資本家)との確執ではないか?)また、映画館には眠るために来ると豪語し、熟睡している所を、いつもいたずらをされて怒っている男など。 ◎ インディアンが出てくると、手を口にあて一緒にそのまねをする子供達。映画のラブシーンと同じように溜息をつく人。そして、チャップリンに笑いころげ、映画が終わると全員で拍手する。そこは、老若男女を問わず、全ての人の憩いの場であった。人々は、映画と共に泣き、笑い、感動した。古き良き時代、映画全盛期の風景がそこにある。 ◎ 映画の人気はすさまじく、朝から、夜まで何回上映しても、入りきれない客でいっぱいだった。ある人気のある映画の上映中、最終回でも入りきれない客が、映画館の外で、大勢待っていた。その人々の中には、3時間も待っている人もいて、これが本日の最終だということに、納得できずに外で騒いでいた。 ◎ それを、見たトトは、アルフレードに何とかしてほしいとお願いする。そこで、アルフレードは魔法を使って、外の壁に映画を映した。その粋なはからいに、外のお客は大歓声をあげた。しかし、これが災いし目を離した隙に、映写機の中のフィルムが燃え火事になった。アルフレードは、必死で消そうとしたが、そのかいもなく、火の手は大きくなるばかりだった。そして、いつしか煙りにまかれ気を失った。 ◎ 火事になって、外で映画を見ていたトトは、あわてて映写室に行き、アルフレードを捜し、必死で救助する。しかし、時すでに遅く、アルフレードは失明してしまった。映画館は全焼し、庶民の娯楽の場はなくなった。神父は再建するお金がないという。その時、サッカーくじで大金を手にしたナポリの男が、映画館の再建に乗り出した。彼は経営者になり、映画館が完成した。その名は『ニュー・シネマ・パラダイス』だった。 ◎ 失明したアルフレードに代わって、トトが映写技師になった。フィルムの出し入れ等はアルフレードに教えてもらっていた。映写技師になったトトにアルフレードは、フィルムの検査書は必ずとっておくようにと念を押す。その証拠に、今までの検査書が壁に何枚も重ねて張ってあった。アルフレードは、これに重ねて張っていくようにと、自らやってみせた。 ◎ 父親の死亡が確認されて、遺族年金だけで家計のやりくりが苦しい母親は、トトが働いてくれることを喜んだ。しかし、学校を辞めて働くと言ったトトを、アルフレードはきつく叱った。『学校へ行き、勉強をしろ』それは、アルフレードが10歳の時から映写技師になり、小学校もろくに出ていなかったからだった。自分と同じ過ちをさせたくない。そんな苦労の体験から、勉強の大切さを教えたのだった。 ◎ トトが学生だった時、転校生の美しい女学生エレナに一目惚れする。彼女は、銀行の重役の娘であった。彼女の姿を映写機に取り、うっとりするような目でいつも眺めていた。何とか、彼女と知り合い、話しかけてみるが、いつもとんちんかんな話になってしまう。『いい天気ですね』と言えば、急に雷が鳴ったり、『君は美人で、愛している』とエレナの母親に間違って電話をしたり……。 ◎ エレナに恋をしたことをアルフレードに告げた。貧乏映写技師と資産家の娘、これはどう見ても釣り合わない。アルフレードは、王女と兵士の逸話を話す。 ◎ 昔、ある国の王様が国中の美女を集めて宴会を開いた。その警護にあたっている兵士が、王女に恋をした。そして、やっとの思いで王女に、自分の気持ちを打ちあける。王女は『100日間、自分の家のバルコニーの下で、待っていてくれたら、あなたのものになります』と言う。兵士は迷わずに実行した。苦しい毎日が続け、疲労で頬がやつれ、体が衰弱したが頑張った。しかし、突然99日目彼は、王女の前から姿を消した。 ◎ なぜ兵士は王女の前から姿を消したかと、アルフレードはトトに聞く。答えられないトト……。 ◎ 教会の懺悔室を利用して、ついにエレナに愛を告げることができた。しかし、トトは、いい人だけど、愛してはいないと彼女に言われる。それなら、愛されるまで待とうと心に決めた。そして、彼は、気が変わったら窓を開けてくれと言い、彼女の家の前で、仕事が終わってから毎日待った。、雨の日も、寒い風の日も、彼女の部屋の窓を見つめて彼は立ちつくした。そして、3ヶ月が過ぎ、新年を迎える日、家々からカウントダウンが聞こえる。その時、彼女の部屋の窓が開かれようとする気配がし、期待したが、逆に、窓はきつく閉められた。がっかりしたトトは、彼女を諦めて家に帰った。 ◎ ところが次の日、映写室にエレナが現れる。愛する二人に言葉はいらない、ひたすら抱き合った。それから、二人の楽しい逢い引きが始まり、いつしか二人の愛は揺るぎないものとなっていく。しかし、二人の関係を知った父親は、交際に強く反対し、会うことを固く禁止した。 ◎ そんな時、トトに間違いの召集礼状が来た。本来なら父親が戦死したので、徴兵が免除されるはずだった。それが何かの間違いで、召集がかかってしまった。その間違いを訂正するには、ローマに行かなければならない。そのことを彼女に伝えに行った時、父親が、彼女を自分の会社の同僚の息子と、一緒にさせようとしているという話を聞く。 ◎ 別れる時、彼女は父親に何とか嘘をついて、木曜日、ここを5時に出るバスに乗って必ず映画館に行くと約束する。 ◎ 5時をはるかに過ぎても彼女は来なかった。きっと何か事情があるにちがいないと思ったトトは、アルフレードに留守を頼み、映画のフィルムが終わるまでの時間を使って、彼女の家に車を飛ばした。しかし、いくらノックをしても誰も出なかった。 ◎ あわてて、映画館に引き返したトトは、アルフレードにエレナがこなかったか聞いた。アルフレードは、こなかったと答えた。映画が終わり、客が騒いでいた。トトは、あわてて次の新しいフィルムを入れ替えるために、フィルムのふたを開け、検査書を急いで前のものに重ねて刺した。 ◎ エレナの心変わりを知り、失恋をしたと思ったトトは、傷心のまま召集場所のローマに行く。トトは、召集は書類上の間違いだから、10日程度で終わると思っていた。 ◎ ところが、間違いであるはずが、ついに訂正されないまま、1年の歳月が経った。やっと、除隊を許されたトトは、ふるさとへ帰る。しかし、映画館には、新しい映写技師がいて、自分の車は鶏小屋となっていた。自分の居場所がなくなったと、トトは思った。 ◎ 一年の間、アルフレードはベットに寝たままで、どこにも行かなかった。トトが、アルフレードに行きたい所はないかと尋ねると、海が見たいと言ったので海に行った。そこで、アルフレードに、王女と兵士の答、つまり兵士が99日目で王女のもとを去った理由を言う。『それは、約束の100日が経っても、王女が裏切り自分のものにならなかったら、兵士の立場がない。それよりも、100日経つのを、きっと王女は待っていたんだと思って、これからの人生を生きていきたいからだ』と……。これは、トトのエレナに対する気持ちと同じものだった。 ◎ アルフレードから、この村は時を感じさせない楽園であり、ここにいてはお前えはだめになる。この村を出て自分の夢をかなえろ。(アルフレードは、トトの映画に関する才能を見抜き、心を鬼にして応援したのだった。)そして、帰ってくるな。もし、淋しくなって帰って来ても、俺は絶対に会ってはやらないと、冷たく突き放す。 ◎ トトは、母と妹とアルフレードに見送られてローマへ旅立った。その後、ローマで映画監督として大成功をするが、アルフレードとの約束を守り、ふるさとには30年間帰らなかった。 ◎ 30年ぶりにふるさとへ帰り、母と再会する。アルフレードの葬儀に参列し、そこで懐かしい人々に会う。映画館の持ち主から、6年前に閉館となり、しばらくしたら映画館が取り壊しになり、公営の駐車場になることを聞く。それは、テレビやビデオが普及し、映画館にお客がこなくなったからだった。また、アルフレードの妻からは、預かっているものがあるから、帰る日までに取りに来て欲しいと言われた。 ◎ ローマの彼の事務所からは、帰宅を促す催促の電話が頻繁にかかる。しかし、30年ぶりに訪れたふるさとはなかなか去りがたかった。翌日、映画館に行く。うらぶれた廃屋であったが、至る所に懐かしい思い出があふれ、今でも観客の歓声が聞こえるようであった。偶然入った酒場で外を見ていると、街角でエレナにそっくりな娘を見つける。その衝撃に持っていたグラスを落としてしまう。すぐにその店を出て、声をかけるが、エレナであるわけがなかった。彼には、今もエレナへの思いが強く残っていた。次の日、その娘を待ち伏せし、車で後を付け家を確認した。 ◎ エレナと出会った頃のことを思い出しながら、トトは母親に言う。子供はいつも母親を年寄りだと思うが、今考えると母さんは、若くて美人だった。その当時は、いくらでも恋ができ、再婚できたのに、なぜ?……。母親は言う。自分は夫と子供達だけを愛し、誠実に生きてきた。お前は私に似て一人の人を誠実に愛しすぎる。かわいそうな子だと……。 ◎ エレナに会うために、車を彼女の家の近くにとめる。そこで、娘と父親が車で出てくるのとすれ違う。父親は、彼の高校時代の同級生のボッチャで、エレナを取り合った仲だった。なぜ、彼が夫か?彼女に家の前のカフェで会いたいと電話するが、二人とも年を取り過ぎた、会わない方がいいと断られる。 ◎ 傷心のトト、心に割り切れないものを持って、昔よく行った海辺で一人ぼんやり考え事をしていた。そこへ、車で彼女がやってくる。なぜここが分かったのか?それは、昔のことをよく覚えていて、彼がこんな時は、どこへ行くのか知っていたからだった。 ◎ 車の中で、なぜあのとき来てくれなかったと、トトは激しくエレナを責める。しかし、エレナの口からは、衝撃的な事実が告げられる。『あの時は両親とけんかをして、大変だった。急にパレルモに引っ越すことになり、それを承知する条件で、最後の別れをするために、父親と一緒に映画館に、少し遅れて行った。』それは、彼が彼女の家に行っているわずかの間の行き違いだった。彼女はゆっくりとトトを待つ時間がないので、アルフレードに、『トトが好きだ』との言付けを頼んで帰ろうとした。 ◎ それに対して、アルフレードは、あくまでもやさしく、言付けをすることを承知してくれた。しかし、アルフレードは言った。『君なら分かってくれるはずだ。二人のためには別れる方がいいということを……。』だから、『彼のために別れてくれ。別れるのが彼のためだ』と言い切った。エレナはアルフレードの熱意に感じ、それに同意した。別れる決心をして帰りかけたが、再び心に迷いが生じ、アルフレードの目が見えないことを思い出し、そっと引き返し、彼に気づかれないように、書き置きを残すことを思いついた。ちょうど目の前にあった。フィルムの検査書の裏に、友達の住所(手紙を出す場所)と『愛している』と書いた張った。 ◎ しかし、アルフレードは彼女が来たことを黙っていた。それは、エレナと別れることがトトのためだと、心底思っていたからだ。そのため、自分が悪人になってもいいと思っていた。また、彼女のメモはトトが新しいフィルムの検査書を張ってしまったため、隠れてしまった。 ◎ 彼女は、父親の勧める男と結婚はしなかった。それは、ねばり強く父親を説得し、ついに父親が折れたためである。そして、トトを待っていた。しかし、どこを探してもトトはいない。そこで、あきらめてボッチャと結婚し、息子と娘を産んだ。 ◎ ああ、なんたる行き違いか、しかし、過去には戻れない。二人は、車の中で今まの時間を取り戻すかのように熱く抱き合い、愛を確かめあった。彼女は、最初アルフレードを恨んだが、今は良かったと思っている。トトは、私と一緒になっていたら、映画は作れなかった。やはりアルフレードの言うとおりにして良かった。その当時、アルフレードだけが真にトトを理解していたのだった。 ◎ 翌日、彼女に再び会いたいと電話するが、二人に将来はない、あるのは過去だけだ。昨日のこともいい思い出として忘れましょうと、断られる。 ◎ ローマの映画スタジオに戻った彼は、アルフレードが形見に残してくれたフィルムを見る。そこには、以前自分のために保管して置くと約束してくれた、キスシーンばかりがつながれた映画だった。それを見るトトの顔が自然に緩んでいく。
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◎ この映画には、いろいろな所にふせんがひかれている。ボッチャの扱い、フィルムが燃えること、フィルムの検査票のことなどである。 ◎ まず、トトの恋敵であるボッチャの扱いであるが、彼をできるだけ滑稽に、ある意味ではバカにして描いていることに気が付く。それが、ラストでエレナの夫(州の議員)であるという、予想外の展開で観客を驚かせる。それも、車の一瞬のすれ違いでボッチャと分かるように、彼の特徴である、おでこの赤い痣を強調することで……。 ◎ ボッチャは至る所に現れる。最初は小学校の教室、くくの『5×5』が答えられず、先生に何度も殴られる。トトが助け船を出し、クリスマスツリーの絵を示すと、クリスマスと答えてみんなの失笑を買う。(クリスマスが12月25日だから、25が正解)この時すでに、ボッチャの特徴である、おでこの大きな赤い痣が強調されていた。この痣を見れば、年を重ねてもすぐに彼だと分る仕掛けである。 ◎ それから、トトが思いついたアイデア(自転車でフィルムを運び、フィルムが一つしかない映画を、二つの映画館で上映しようとすること)のために、自転車でフイルムを運ぶフトッチョの男がボッチャである。ここでは、フィルムを途中で投げ出す無責任で、だめな男として描かれている。さらに、高校時代はエレナを取り合い、トトに先を越される間抜けな役回りを演じている。 ◎ 次に、アルフレードがトトに、『フィルムは燃えるから気をつけろ』と話しているシーンがある。それが、トトの持っていたフィルムが燃え、妹が危うくやけどを負うボヤを起こすことに、さらに映画館が全焼し、アルフレードが失明することにつながる。そして、映画館が再建され、トトが代わりに映写技師になる。トトの代になって、フィルムが不燃性になった。それを聞いたアルフレードが『進歩はいつも手遅れだ』という言葉が印象的だ。 ◎ 最後に、これもアルフレードがトトに、『フィルムの検査書は大切なものだから、絶対に取っておくように』と念を押すシーンがある。その証拠に部屋の中には無数の検査書が重なって張られている。しかし、それは大切だけど、取っておくだけで決して読まれることのない紙であった。それを知らないエレナが、その裏に大事な伝言を書いてしまう。そして、その上にトトはいつものように、次の検査書を張って、伝言を隠してしまう。 ◎ アルフレードは、トトの映画の才能を早くから見抜き、高く買っていた。トトの夢も知っていた。彼こそ、トトの真の理解者である。夢をかなえるには、エレナに溺れている暇はない。だから心を鬼にして嘘をつく。友情とは、その友のためになることは、自分が悪者になってでも、言ってやることである。 ◎ 映写技師になることで、勉強ができなくなるというトトを叱る。小学校もろくに出ていない、自分と同じ道を歩ませたくなかった。また、トトは、一映写技師で終わる人間ではないと確信していたから、学校を続けることを強く言う。二人は友情というよりも、父と息子の愛情に似ている。 ◎ 王女と兵士の物語、自分は次のように考える。『愛は試すものではない』、約束の100日が経ち、結ばれてもそれは本当の愛といえるだろうか?それに兵士が気付いたからである。そして、本当の愛ならば、王女はエレナのように兵士のもとに行くはずだ。 ◎ トトは、エレナがこなかったことで、この恋をあきらめざるを得なかった。しかし、エレナは、いつまで待っても手紙がこないのは、何らかの事情で、トトがメモを読まなかったからだと考えなかったのか?だったらトトを探し真相を確認するはずである。探す方法はいくらでもある。しかし、あえて彼女はそうしなかった。それは、エレナもトトのためには別れる方が良いという、アルフレードの言葉に賛同していたからだ。 |