海の上のピアニスト

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海の上のピアニスト(THE LEGEND OF 1900
平成13年1月10日 ビデオで見る。 監督・脚本 ジョゼッペ・トルナトーレ
音楽 エンニオ・モリコーネ 1999年アメリカ=イタリア合作
出演、ティム・ロス /プルート・テイラー・ヴィンス /メラニー・ティエリー
原作 : アレッサンドロ・バリッコ (白水社刊)

 

あらすじ

 

 1900年のある日、ヨーロッパとアメリカを往復する、豪華客船のヴァージニアン号に、赤ん坊が捨てられていた。それを拾って育てた黒人の機関士は、自分の子供のように可愛がり、ナインティ・ハンドレットと名付けた。彼こそ、一度も船を降りたことのない海の上の天才ピアニストだった。成長した彼は、その船のピアニストとして活躍する。彼は、ピアノを誰からも習わなかったが、88の鍵盤上を勝手に手が動き、人の気持ちを歌った、美しいメロディを弾いた。それは今まで聞いたことのない曲で、大評判を呼んでいた。親友のマックスは、陸に上がれば有名になり、望みは何でも叶うと、盛んに下船を勧めるが頑として譲らなかった。

 その評判を聞き、ジャズの創始者モートンが決闘を申し込んできた。始めは、モートンの演奏に感動し、戦意を喪失していたが、モートンのあまりにも不遜な態度に怒りがこみ上げ、神がかりのテクニックで演奏し、モートンを完膚無きまでにやっつけてしまう。

 彼は、金持ちのダンスの伴奏だけでなく、貧しい移民を慰めるためにもピアノを弾いてやった。そんな彼の所へ一人の農民がやってくる。農民は不幸のどん底であったが、『人生は無限である』という海の声を聞き、一人娘のために頑張るため、アメリカに行くと言った。

 船を降りないので、船上でレコードの録音が行われた。仕方なしに、ピアノを弾き出した彼の目に、窓の外に魅力的な若い娘が写った。一目惚れした彼は、彼女のことを考え、今まで弾いたこともない、美しい曲を弾いた。これで、何百万枚もコピーでき、有名になれると喜ぶレコード会社に人に、かれは、「自分の曲は自分と一緒でなければならない」と、原盤を持ち去ってしまう。原盤を彼女に渡そうと接触を試みるがどうしてもうまくいかない。しかし、彼女の話から、海の声を聞いた農夫の娘であることが分かり、船がニューヨークについた時、彼は父親を知っていると話しかける。やっと二人に心のつながりができたのに、無情にも人混みが二人を離した。最後に彼女は、父に会いに来てくださいと言って船を降りた。

 彼は、2年ばかりして、急に船を降りたいと言った。陸から海を見たいというのがその理由だが、本音は彼女に会いたいためだったのだろう。堅い決心をしてタラップを降りたが、なぜか途中で足が止まり、船に引き返してしまった。自分は88という有限の鍵盤の中で、無限のメロディを作ってきたが、都会のような無限の鍵盤が弾けるのは、神だけであると……。それ以後、二度と船を降りようとはしなかった。

 戦争が始まり、病院船として酷使されたヴァージニアン号は、廃船となり爆破されることになった。マックスは、船の中にナインティ・ハンドレットがいると確信し、彼のレコードをかけて待つ。案の定彼はいた。しかし、必死の説得もむなしく、どうしても下船することは承知しなかった。『自分の人生は船と共にあった。船を降りることができないなら、人生を降りるしかない』と…。

 

 

 

詳しい筋

 

◎ 今は落ちぶれたトランペッターのマックスが、港町の裏通りにある楽器店に入り、自分のトランペットを売る所から、物語は始まる。店主に足下を見られ、どんなに名品だと言っても、安い金しか出してもらえなかった。マックスは不満だったが、店主から嫌ならやめておけと言われ渋々売る。店主は言う、その金でまともな食事をしろと……。

◎ 後ろ髪を引かれる思いで、自分の命を手放したマックスは、最後にもう一度トランペットを吹かせてくれと頼む。マックスが吹いた曲を聴いて、店主が思いだしたようにレコードをかける。それはレコードと同じ曲だった。

◎ 彼は不思議そうにそのレコードを見る。それは、継ぎ接ぎだらけの原盤だった。このレコードを見て、彼はその曲を弾いた、親友の天才ピアニストを思いだす。

◎ 豪華客船のヴァージニアン号は、ヨーロッパとアメリカとの間を、1年で5往復していた。その中には、金持ちの観光客に混ざって、多くの移民が含まれていた。彼らは、自由の地アメリカを目指して、希望に胸膨らませて行くのだった。

◎ 1900年のある日(くそったれ20世紀の最初の年)船の中に移民が捨てたと思われる赤ん坊が、レモンの箱に入れられ、ダンスホールのピアノの上に置かれていた。それは、貧しい移民が、金持ちが拾って育ててくれることを願って置いていったものだった。

◎ それを、石炭焚きの黒人機関士ダニー・ブードマンが拾い育てた。その名前は1900年にちなんで、ナインティ・ハンドレットと名付けられた。同僚の石炭焚きからどんなに冷やかされても、彼は自分の子供のように可愛がっていく。

◎ 彼は子供に言う。ママとは馬のこと。孤児院とは、子供がいない大人を閉じこめておく牢屋のこと。陸は恐怖に満ちた、人喰い鮫がいっぱいの場所であり、船の外には出ない方がいいと……。

◎ ナインティ・ハンドレットは、船で生まれ、船をゆりかごとして育った。船の外には一歩も出ずに船倉で成長した彼は、いわば、この世に存在しない人間だった。そのため、見つかると取り上げられると思い、ダニーは絶対に陸には上げなかった。

◎ ダニー・ブードマンが仕事中に事故で死ぬ。彼が8才の時だった。葬儀が甲板で行われたが、その時初めて彼は音楽を聞いた。しばらくして、ある夜彼は立ち入り禁止の一等客室に入り、ダンスホールで美しく着飾った、紳士淑女が踊るのを驚きの眼で見た。そして、みんなが寝静まってから、再びホールに行きピアノを弾いた。そのあまりに美しいメロディーに客は起きてホールに集まっていた。

◎ 驚いた船員が船長を呼びに行く。規則違反ではないかと言う船長に、少年は、規則などくそ食らえと言う。彼は、誰にも教わらないのに、流れるように美しい曲を弾いている。回りの大人は驚異の目で見つめるのに、平然と何事もなかったように弾く彼、天才ピアニストの誕生である。

◎ それから、彼はバンドに加わり、ダンスのための曲を弾いたり、移民達の心を和ませるために、彼らから教わった民族音楽を弾いた。彼らの希望に輝く眼を見るのが好きだった。

◎ そんな、彼の所へ、彼の演奏がすばらしいからと、アコーディオンを持った、一人の農夫が話しかけてくる。農夫は、村で生まれ、村で生き、村で死ぬはずであった。しかし、干ばつで農作物を全てやられ、あげくに妻は司祭と駆け落ち、子供は流行病で死んで行った。残ったのは末娘だけだった。この子のために、がんばろうと決めた時、海の声を聞いた。人生は無限であると叫んでいた。それに勇気づけられ、アメリカに行き無限の可能性を確かめると言う。

◎ 親友のマックスが船に乗ったのは、24才の時でそれから6年間船の上にいた。彼は得意のトランペットで乗船が許され、バンドに加わった。その豪華客船に乗ることは、無限の可能性と、毎日がお祭りのような感動を与えた。しかし、その気分も3日もすると、完全に打ち砕かれた。猛烈なしけのため船が木の葉のように揺れた。寝ることもできず、マックスはロビーで出てくるが、まっすぐ歩けず吐いてしまう。その時、ナインティ・ハンドレットから酔わない方法を教えてやると声を掛けられる。彼は、ロビーのピアノのストッパーをマックスに外させ、一緒に座らせた。揺れに任せて彼はピアノを弾いた。それは、ピアノが彼の曲に合わせて、ダンスをするようであった。

◎ しかし、ピアノは船長の部屋のドアを破って止まる。この罰によって、二人は石炭たきを命じられる。このことがきっかけで二人は親友になった。彼は27才だった。

◎ 彼の天才は、とどまるところを知らなかった。自然にメロディがわいてくるのだった。ある人を見て、その人のことを詩人が言葉で語るように、彼は、メロディで語るのだった。彼の奏でる曲の美しさは技巧の巧みさと相まって、評判が評判を呼んだ。

◎ 客の誰もが彼のピアノに惜しみない拍手を送っていた。そんなある日、ニューヨークに停泊中の船に、我こそはジャズを創った男と名乗る、黒人ジェリー・ロール・モートンが乗り込み、彼に決闘を申し込む。モートンは自信満々で、海の上でしかピアノを弾けない男を最初から馬鹿にし、相手にしていなかった。

◎ 最初にモートンがものすごいテクニックでジャズを弾く。火を点けた煙草をピアノの上に載せ、その灰が落ちないような繊細な動きだった。会場はものすごい拍手、彼も感動し、涙を流す。しかし、彼は、それに対して、クリスマス・カロル(クリスマスの歌)を弾いて照れ笑いをするのだった。お客からブーイングが起こる。2曲目は、モートンと同じ曲を弾く。楽譜もないのにどうして同じ曲が弾けるのか?そんなことは客は考えてくれない。彼の負けを全員の人が確信したとき、彼は、親友からタバコを1本もらい、それをピアノの上に置いて、猛烈な勢いでピアノを弾く。その華麗で力強いキー捌きは、まさしく天才としか言いようがなかった。(画面では、何本もの手が現れる。そのくらいの神業である。)

◎ 満場割れんばかりの拍手。拍手。呆然とするジャズ男に対して、彼はピアノの上のタバコを取り、ピアノ線で火をつける。そのくらい白熱した演奏であった。自分はタバコを吸わないからと、モートンの口に加えさせる。呆然としたモートンの靴に煙草の灰がだらしなく落ちる。観衆は彼を肩車し、勝利を祝った。(この場面での煙草の使い方が見事)

◎ 次の停泊地で、モートンは肩を落として船を降りた。彼は、モートンに向かって『ジャズなどくたばれ』と言う。

◎ 彼の親友のマックスは、船を降りれば無限の可能性がある。君の腕を生かしていけばどんな名声もお金も思うままだと、必死で下船する事を進める。しかし、彼は相変わらず船から降りようとはしない。

◎ レコード会社の人が船に来て、彼のピアノを録音する事になる。録音の準備ができると、合図で彼は仕方なしにピアノを弾く。ふと、窓の方に目をやると、美しい若い娘が見える。その憂いを秘めて魅力に彼のピアノは自然と動く。彼女のことを考え、恋することで美しい曲が自然とわき出てくる。

◎ 録音が終わるとレコード会社の人から感嘆の声が上がる。こんな美しい曲は今まで聴いたことがないと。船を下りなくてもこれで名声を得ることができる。原盤を元に何百万枚もコピーができるのだ。今演奏した曲をレコードから聴いた彼は、『自分の曲は自分と一緒になければだめだ』と言って、その原盤を持ち去る。

◎ 彼は、その原盤を一目惚れした彼女に渡そうとする。しかし、今まで女性と恋をしたことがない彼にとって、それは予想以上に大変なことであった。何度彼女と話す練習をしても、いざ彼女の前に立つと、何も言葉が出てこない。

◎ 雨の甲板に立ち、海を眺めている彼女が、友達と話していた『父が海の声を聞いた』という言葉から、以前彼に話しかけてきた農夫の娘であることを知る。彼は、自分の心を自制できない。夜、三等女性船室に入り込み、彼女の寝ているベットに行き、彼女をのぞき込む。彼女のかわいい寝顔と愛らしい唇、彼は、たまらずに彼女に口づけをする。そして、彼女が起きる気配を感じるとあわてて逃げる。何か異様な気配に起き、回りを見渡す彼女。

◎ 船がニューヨークに着き、彼女が船を降りる。混雑する人混みをかき分け、彼女に近寄り、君の父親を知っていると話しかける。なぜ私の父だと分かったと不思議がる彼女に、それは言えない、君の父親が言っていたように秘密は守らなければならないから……。彼女は彼に近づき頬に口づけをする。(まるで、昨日の口づけを知っているように)

◎ 何とかレコードの原盤を渡そうとするが、混雑する人混みのためうまくいかない。最後に、幸運をと言うと、彼女は父親は魚屋をやっている、ぜひ会いに来て欲しいと言う。彼の初恋は、はかなく終わった。彼は、原盤を割りそれをゴミ箱に投げた。

◎ それから、2年ばかりの間、彼はいつもと変わらず幸せそうだった。それが、突然ふさぎ込み、一人になって考え込んだ。彼は、ニューヨークで船を降りる決心をしたのだった。彼は、『陸から海を見てみたい』と言う。マックスは、彼にお気に入りのコートをやった。みんなから歓迎を受け、タラップを降りる彼、しかし、タラップの真ん中に来るとぴたった足が止まる。そして、しばらく考えると、帽子を高々と放り投げ、踵を帰して船に戻ってきてしまった。

◎ そして、何ごともなかったように船の生活は続き、日々がすぎ、時間が経った。1933年、マックスは船を降りることになった。いつまでも船に乗っているわけには行かなかったからだ。しかし、ナインティ・ハンドレットは下船しなかった。それ以後の彼の噂は聞かない。

◎ マックスは、レコードのことが気になり、楽器店に行きそのレコードがどこにあったか聞いた。あのピアノの中と、答える。そこに古いピアノがあり、調律されているところだった。そのピアノは今まさに廃船になろうとしている、豪華客船の中にあったものだった。彼はあわてて客船の所へ行く。そこでは、ダイナマイトを仕掛け、爆破する準備が着々と進んでいた。

◎ マックスはそこの責任者に頼み、彼が船の中にいるはずだからと、彼の話をしながら説得をする。しかし、一緒に探したが彼は見つからなかった。爆破まで後わずか、必ず彼がいると確信しているマックスは、楽器店に忍び込み、レコードを盗もうとした。しかし、店主に見つかるが、彼の命がかかっていると頼み込み、蓄音機を借り、それを船の中でならした。案の定彼はいた。

◎ 二人は久しぶりに話した。その時に彼がなぜ下船半ばで帰ってきたかの理由がわかった。マックスは一緒に下船し、バンドを組んでやり直そうと話す。そうすれば成功間違いない。人生には、一からやり直さなければならないときがあるものだ。しかし、彼は、言う。自分は船を下りない、だったら人生を降りるしかない。

◎ 彼の決意を知った親友は、一人下船する。それを待ちかまえたかのように、タラップがはずされ、ダイナマイトが爆破し、船は海の藻屑と消えた。

◎ 楽器店に現れたマックスは、ナインティ・ハンドレットのために、自分は何もしてやれなかったと肩を落とす。そんなマックスに店主は、レコードをピアノに入れたのだから、何もしなかった訳ではないと慰める。そして、帰ろうとするマックスに、彼のトランペットを渡す。お金がないというマックスに、言い話を聞かせてくれたからと……。

 

 

私の感じたこと

 

◎ 限られた世界で生きる彼が、船を下りる決心をし、タラップの中頃まで行ったが、帽子を海に投げ船に引き返すシーンがある。なぜ、彼は船に戻ったか?それは、都会は無限であり、どこまで続くかわからない。それが恐ろしく自分には耐えられない。無限にある鍵盤を引けるのは神だけだ。自分は限られた鍵盤から無限のメロディーを作ってきた。しかし、無限の鍵盤からは何も生み出さない。

◎ 自分の与えられた運命を守り、その中で精一杯生きていく。これが彼のやり方であり、その時に彼の力が十二分に発揮される。それをよく知っていた。無限の可能性を捨て、有限の世界に生きる。

◎ 彼は、臆病でもないし、勇気がないわけでもない。それが証拠に毎日の演奏の中で、新しい冒険をしていた。

◎ 彼は陸に上がり、ピアノで身を立てることができたはずだ。しかし、それとても、無限に続く道の途中でしかない。どこまで行っても欲望には限りがない。それをどこかで断ち切り諦める。人生の幸福とは、どこかで満足することが必要だと、彼は知っていたのではないか?かれは、『足ることを知る』男であった。

◎ 自分の天才的な腕前にうぬぼれるわけでもなく、人の喜びを自分の喜びとし、淡々とピアノを弾く。彼こそ、生き方の名人であるのかもしれない。

◎ 外の世界がどんなに魅力があり、それに惹かれても、それへは踏み出さない。誰が考えても、あの腕があれば、有名になり金も入り裕福に暮らせる。恋も思いのままだ。しかし、彼はそれも全て、幻と知っていた。追いかければ虚しくなるだけであることを。

 

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