第三の男

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 この映画、オーソン・ウェルズの名前と有名な主題歌に惹かれて見た。それ以外は一切何の予備知識もなかった。見てみて、オーソン・ウェルズが主演でないのにびっくり(笑)。

 おしゃれなせりふが一杯あって、演技派俳優がそろった大人の映画でした。白黒だけど、それが陰影を産み、奥行きのある画面にした。誰もいない裏町、長い人の影、下水道に響く靴音、それらが効果的だった。今から、50年も前の映画とはとても思えない新鮮さ、古さを感じさせない映画であった。また、有名な映画音楽「ハリーライムのテーマ」が随所に流れ、映画の雰囲気を盛り上げている。

 アメリカの三文作家、ホリー・マーチンス(ジョゼフ・コットン)が、20年来の親友ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)に請われて、ウィーンにやってくるところからドラマは始まる。でも、期待を胸にした彼を待っていたのは、ハリーが事故死したと言うニュース。これを聞いて呆然とするホリー。でも、事故の事情を聞いて回る内に、その事故に不信を抱く。それは、事故現場にはもう一人の男<第三の男>がいたことがわかったからだ。果たして、ハリーは殺されたのか?<第三の男>を探し、事故の真相をホリーは探り始める。

 ハリーの愛人アンナ(アリダ・ヴァリ)は女優の卵で美人です。チェコからの密入国、第2次大戦後の東西冷戦時代であったから、それがわかると共産国チェコへ強制送還される。彼女はハリーからパスポートを偽造してもらっていたが、ホリーと真相を探る内に、そのことが警察にばれる。危うく強制送還される所をホリーから助けられる。彼女はハリーの愛人で、彼の愛を信じ彼を愛してきた。しかし、真相がわかると共にハリーが悪人であることがわかる。

 普通ならここで、ハリーをあきらめホリーの愛を受け入れる所だが、彼女はホリーの愛を感じていても受け入れない。ここが女心の微妙なところ、悪人であっても、自分を愛してくれていたことに間違いはない。

 ホリーの愛を受け入れないばかりが、友人を裏切る見返りに彼女を救ったことを激しく責める。まるで、友情を捨てる男は信用できないとでもいうように……。

 ラスト・シーンは、有名なシーンみたいです。ハリーの葬式の後、長い長い並木道を歩いてくるアンナを、ホリーが荷車にもたれて待つ。飛行機をキャンセルしての事だから、それは明らかに愛の告白。おまえを一人ここに置いて帰ることはできない、それを態度で示した。でも、そんなホリーに一瞥もくれず、アンナは立ち去る。

 あそこは止まってほしい、せめて、見つめるくらいでも……。彼女のハリーを思う愛の強さか?友情より自分をとった男への軽蔑か?女の意地?彼女が一瞥もしなかったこと、さらに、彼も声をかけなかったことが、粋な大人の恋なのでしょう。

 

 

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