ベニスに死す

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≪ベニスに死す≫(ヴイスコンテイ監督65歳のときの作品)h15.1.2

 <芸術では完全なる「美」は作れない。完全なる「美」とは自然に生まれるものだ>この考え方に異をとなえる老いた作曲家、アッシェンバッハ(ダーグ.ボガード)。愛する家族も、音楽家としての名声も失った過去の人。その作曲家が心臓病の療養のために、避暑地ベニスのホテルに滞在します。そこで彼は<美の化身>とも言える、美少年タジオ(ビョルン.アンドレセン)に一目惚れする。彼は、彫りが深く、端正な顔立ち、スリムで整った体型から、ギリシャ彫刻を思い浮かべました。

 その時から、彼は美少年を熱いまなざしで見つめ、後をつけ回します。さりげなく、気づかれないように……。そんな彼に、時より見せるタジオの目、ドキッとさせる色気と誘っているような感じをいだかせる。でも、それは彼の錯覚、おそらくタジオは何にも知らずに、ただ空間を見つめていただけ、それを彼は期待を込めて、自分へ向けられたものと思い込みたかっただけだ。

 <老いほど、不純なものはない>という言葉が出てくる。その言葉と裏腹に、老いた作曲家が、純な美少年を求める。

 彼は床屋に行き髪を染め、化粧をしてもらい、胸に赤いバラをさす。若返ったというよりも気持ちが悪いピエロのようだ。道化のような姿に気づかない彼が哀れ。それで若さを取り戻し、タジオの心を捕まえることができると考えたのだろうか?

 そのまま、海岸に出てタジオを探す。タジオを見つけ、その姿を目で必死で追うも、そのうち、暑さ、臭い、持病によって体の調子が悪くなる。脂汗が化粧を落とし、老いた醜い姿にして行きます。そして、タジオの美しいシルエットを見ながら、彼は死んで行きます。

 偽りの若さでタジオを手に入れることができないことを、彼が一番知っていたと思います。老いて死んで行くものの寂しさ、過去の栄光があればあるほど寂しいもの。寂しさを忘れるために、最後の望みとして、到底手に入らないとわかっている、美(タジオ)を求めて行ったわけです。手に入らなかったけど、彼は幸せだったと思います。

 

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