ブリキの太鼓

映画の目次へ 

 


 <ブリキの太鼓>を見たことがありますか?

 なかなか難しい映画で、ストーリーも簡単には書けません。

 時代はナチスが台頭し始める頃です。ポーランドのダンチヒという街に生まれた、オスカルという少年が主人公です。彼は三歳の時に、大人達の汚れた世界を嫌い、自分の意志で自ら成長を止めます。彼は、母から3歳の誕生日に贈られたブリキの太鼓を肌身離さず持ち、奇声を発することで、ものを破壊する特殊能力を持っていた。その少年からみた、大人の世界(母の不倫、家族とそれを取り巻く人々、ナチスの台頭)を描いていました。

 とにかく、難しい映画で私ごときでは適切な論評ができないのですが、インパクトの強い映画だったこと、少年の演技が光っていたことは言えます。私は見る前はもっと反戦色の濃い映画とイメージしていましたが、人間社会の醜さ(子供の目から見た)が全面に出て、現実感のある作品でした。セックスシーンの過激さにもびっくりしましたが、現実の生活はあれに近いものなんでしょう。

 子供は天使のようなという表現もされますが、大人の見えないところでは、結構残酷です。オスカル少年(年齢は高いのに、成長の止まった彼はいじめの対象であった)に近所の子供たちが闇鍋(かえる、泥、おしっこ等)のスープを無理矢理飲ませていました。このシーンには思わず吐き気を催しましたが、他にもグロテスクなシーンが幾つかありました。例えば、漁師が網の代わりに牛の頭を使い、そこからたくさんのウナギが出てくるシーン。さらに、従兄弟との不倫で妊娠した母親が、その子供を産みたくないために、生の魚をむさぼるようにかじるシーンは気持ちが悪かったです。 

 ビデオを見てから、インターネットでこの映画の評論を幾つか見ました。その中に以下の事が書いてあり、難解だけど、何か深いものがあると感じていた私は、この評論によって諒解できました。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 この作品は、子どもの姿のままでいることを選んだ男をポーランドになぞらえて描いた寓話。オスカルは子どもであることも大人であることも、ともに自分の意志で選びつつ、ナチズムと戦争の時代を生きのびてしまう。一方、彼の周りの人々は次々に非業の死を遂げる。

 つまり、彼は生きのびる為に、意図的に目をとじることを選んだのだ。ナチズムに迎合することも、ポーランド人として果敢に闘うことも、どちらも選ばなかった。彼は子どものまま現実から逃避することを選んだのだ。そして結局はそうした現実逃避が命を長らえることに役立った。この皮肉。そして、ソ連によって「解放」されたポーランドの将来にいっそうの困難が待ち受けているであろうことも、オスカルの「決意」に託して描いている。

 ひとつひとつの挿話が小刻みなエピソードとして歴史の隠喩を含んでいるのだが、これを理解するには相当な知識が必要だ。

 ポーランド、ドイツ、ソ連、といったヨーロッパ近現代史の基礎知識がなければまったく理解不能な映画。見る前に必ず歴史の勉強を。

 

上に戻る