ベニスの商人

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 新作は旧作になるまで借りない、そんなこだわりのあるケチな私ですが、この作品は別で、どうしてもすぐに見たくなりました。映画館で見たかったけど、遠い名古屋しかやっていなくて悔しい思いをしていたからです。というわけで、h18.4/27(木)に借りてきて見ました。

 ベニスの商人は、大学生の頃に読みました。どうしてシェークスピアを読もうとおもったのかは忘れましたが、きっと初恋の人と「ロミオとジュリエット」を見て、感動をしたことくらいなんでしょう(笑)

 その時に、ロミオとジュリエット以外に、歴史物のアントニーとクレオパトラ、ジュリアスシーザー四大悲劇のハムレット、オセロ、マクベス、リア王。それらと一緒にベニスの商人も読みました。

 何しろ35年も前のことだから、小説の内容はほとんど忘れ、あのあまりにも有名な「人肉裁判」のそれも、<落ち>の部分しか覚えていませんでした。

 映画を見ながら、読んだ内容を少しずつ思いだして行きましたが、随分自分の思っていたイメージと違ったので、びっくりしながら新鮮で面白く見ることができました。

 16世紀のベニスの雰囲気がよく出ていて、人肉裁判以外に、婿選びや友情、恋愛が明るく描かれていて、重厚だけど楽しい作品になっていて、最後まで画面に釘付けになっていました。

 後で、調べたら、導入部分のユダヤ人の迫害の様子は監督の意志で、原作にはないものを入れたそうで、なるほどと思いました。 このことが、私のこの作品のイメージを一番狂わせ、なおかつ、しっかりとこの作品の重さとか意味を感じさせてくれました。

 ベニスの商人に限らず、西洋の作品に登場するユダヤ人は常に差別され虐待を受けています。そのあまりにもひどい嫌われ方に、どうして?そこまで?という疑問があります。

 この作品の導入で、それが解決したわけではないのですが、どうしてこのような作品ができたかという理由はわかりました。

 16世紀のベニスは、最も自由主義の発達した街、そこでもユダヤ人は差別され、ゲットー(ユダヤ人だけがすむ居住区)に閉じこめられ、夜には門にカギをかけられ、それをキリスト教徒が監視をしていました。

 そして、外出するには赤い帽子をかぶることを義務づけられていました。ほとんどのユダヤ人が金貸しを商売としているような言い方をしていましたから、ユダヤ人=金貸し=ずるい=嫌い、というようなイメージが定着をしていたのでしょう。

 ユダヤ人は金を貸し、利息を取る事を仕事としていました。今では当たり前の事が、その頃のキリスト教の支配する世界では悪とされていた。

 人に金を貸し利息を取ることが人の道に背くと考えられていた、それはキリスト教的な宗教観なんでしょう。 でも、差別をされているユダヤ人は、金貸しという非人道的な仕事をするしか道はなかった、そんな気がします。

 ただ、キリスト教の教えが、<汝の隣人を愛せよ>だから、このユダヤ人への差別は、その教えには大きな矛盾です。まあ、矛盾なんて関係なしに、差別があるのが人の世の常なのでしょう。

 この作品を真に理解するには、このユダヤ人とキリスト教徒の対立ということを知る必要があります。

 ユダヤ人の金貸し、その代表としてのシャーロック。それを嫌うキリスト教徒の代表としての、ベニスの商人アントーニオ。これは個人的な敵対関係という範囲を超えて、ユダヤの民族の尊厳をかけて、キリスト教徒に対する復讐をするもの語り。それがわからないと、どうして、そこまでアントーニオの肉にこだわるか?理解できません。ここにそのカギがあります。

 でも、作者のシェークスピアを始め、世界を支配していたキリスト教徒にユダヤ人が勝てるわけがありません。 ほんとうに、あの裁判はあれで良かったのでしょうか?ユダヤ人の金貸しシャーロックは悪、だから悪は亡びるという勧善懲悪の考え方から行けば正しいかもしれません。でも、それはあまりにもキリスト教徒サイドの見方、一方的過ぎないのでしょうか?

 アルパチーノのシャイロックが正直かわいそうになりました(笑)。娘に逃げられ、財産もなくし、キリスト教徒に改宗をさせられる。まったく踏んだりけったりです。それに引き替え、アントーニオはなんの罰則もない。一番いけないのは、彼が約束を破ったことです。

 確かに、シャーロックがあくまで人肉にこだわる事は大人げないし殺人になる。それよりも、お金が何倍にもなって返ってくるのですからそれで十分だと思うですが……。

 アルパチーノのシャイロックみごとです。彼でなくては、あれだけのシャイロックは演じられなかったでしょう。

 召使いばかりか、娘が自分の財産を持って逃げてしまい、夜の街を娘を捜してさまよえる時の惨めさがよく出ていました。ユダヤ人として差別され迫害されることに、強い怒りを覚えながら、それをぐっと内に秘め、表面的には素直にしたがっているように見せている。

 その積み重なる鬱憤をはらすため、キリスト教徒の代表であるアントーニオに対する復讐を、どんな事があってでも抜くという意志の強さをうまく演じていました。まさに、アルパチーノの「ベニスの商人」でした。

 そう言えば、アントーニオを演じていた、ジェレミー・アイアンズは、<永遠のマリアカラス>で、彼女の友人であるプロデューサー役で重要な役柄を演じていました。

 

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