ビクトル・ユゴーの原作「レ・ミゼラブル」は私の青春時代に夢中になって読んだ本です。日本語の題名が「ああ無情」だから、このフランス語の意味も、「無情」を表しているのでしょう?どなたか知っていたら教えてください。 その時は、若い時だったから、ジャンバルジャンに、そこまで正直に生きなくてもと思ったり、ジャベールの執拗な追っ手に、いい加減にしろと思ったりコゼットのかわいそうな境遇に涙を流したりしていました。本は2回、また本だけでなく、映画でも何度か見た記憶があります。 ジャンバルジャン役に別所哲也、ジャベール役に岡幸二郎でした。途中休憩が30分あり、つごう2時間45分の大作でしたが、生の迫力、最後まで舞台に釘付けで、何度も感動し、胸が熱くなるシーンがありました。 一階の前から12列目と良い席だったので、役者の顔の表情がはっきりと見えました。舞台の奥行きと広さをしっかり感じられたのが最高に良かったです。 あの膨大な作品を3時間以内でまとめるには、演出をする人の大胆な発想が必要なんでしょう。それがどんなものかわかるともっと楽しかったのでしょうが……。 30年以上も前に読んでいた私は、ほとんど内容を忘れていたのですが、舞台が進みにつれて、少しずつ思いだして行きました。 映画と違って舞台はそんなに場面を動かせません。その少ない場面を有効に使うために、暗闇とそれを照らすスポットライトをうまく使っていた気がします。煙と音も効果的でしたね。 全てのセリフを歌で演じたミューカルは初めてです。役者の苦労が目に浮かぶようです(笑)。ただ、踊りの場面が少なかったのが、私的には残念でした。また、一人一人の歌唱力も素晴らしかったのですが、合唱はさらに迫力があり、腹にしみわたりました(笑)。 **************** この作品、<貧困>と<良心>がテーマであった気がします。 妹の子供の飢えを救うために、ジャンバルジャンはパンを盗み、その罪で17年間牢獄につながれます。 やっとつかんだ仮釈放。でも、世間の風は冷たい。自暴自棄になったバルジャンは、仮釈放の身ながら逃亡をします。空腹に死にそうになったバルジャンを、唯一やさしく受け入れてくれたのは教会でした。 でも、彼はそれに報いる変わりに、教会の銀の燭台を盗みます。しかし、そんなバルジャンの罪を司教は温かい心で許します。 この司教の心に改心をした、バルジャンは一生懸命働き工場を建て、やがて市長になり、信頼と尊敬を受けます。 しかし、この忘れかけていた暗い過去を執拗に追いかけるジャベール警部の影が……。 ジャベール警部の執念は、映画<逃亡者>を彷彿とさせます。きっと、逃亡者を作った脚本家は、この作品を参考にしたのでしょう(笑)。 幼いコゼットが養われていた旅館の娘(エポニーヌ)。途中で立場が逆転し、かわいそうな運命でした。自分が愛するマリウスと、いじめたコゼットの恋の橋渡しをしなければならない。なんとも不思議な因縁です。でも、好きな男に嫌われたくない一心、だれでも、一番やりたくない役柄ですね。 身分を隠し、市長になったジャンバルジャン。でも、自分の身代わりに無実の男が捕まります。黙っていれば、自分は晴れて自由の身。でも、バルジャンは黙っていることはできなかった。<言わなくても地獄、言っても地獄>この言葉が彼の苦悩を代弁しています。そして、言わない地獄の方がはるかに耐えがたく辛いと考えたのでしょう。 「衣食足りて礼節を知る」の例えどおり、極端な貧困は、人間の心を卑しくさせます。この作品は、貧困が人間に何をさせるかを、はっきりと見せてくれました。 心静かにラストシーン。原作でもあんな安らかなラストだったんでしょうか?原作での終わり方は印象に残っていませんでしたが、ハッピーエンドで良かった(笑)。 |